化学のちから – SANYO CHEMICAL MAGAZINE /magazine Fri, 11 Oct 2024 05:24:18 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.4.5 /magazine/wp/wp-content/uploads/2020/09/cropped-sanyo_fav-32x32.png 化学のちから – SANYO CHEMICAL MAGAZINE /magazine 32 32 消泡機能はそのままに、塗料の性能をサポート /magazine/archives/8386?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e6%25b6%2588%25e6%25b3%25a1%25e6%25a9%259f%25e8%2583%25bd%25e3%2581%25af%25e3%2581%259d%25e3%2581%25ae%25e3%2581%25be%25e3%2581%25be%25e3%2581%25ab%25e3%2580%2581%25e5%25a1%2597%25e6%2596%2599%25e3%2581%25ae%25e6%2580%25a7%25e8%2583%25bd%25e3%2582%2592%25e3%2582%25b5%25e3%2583%259d%25e3%2583%25bc%25e3%2583%2588 /magazine/archives/8386#respond Fri, 11 Oct 2024 05:08:15 +0000 /magazine/?p=8386 PDFファイル 水系建築塗料用消泡剤『SNデフォーマー 395』(サンノプコ株式会社) ほとんどの建築物の外壁は、美観の向上と建物の保護を目的に塗装が施されています。しかし、塗装時に気泡が発生すると、美観を損ね、保護機能…

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水系建築塗料用消泡剤『SNデフォーマー 395』(サンノプコ株式会社)

ほとんどの建築物の外壁は、美観の向上と建物の保護を目的に塗装が施されています。しかし、塗装時に気泡が発生すると、美観を損ね、保護機能にも悪影響を及ぼします。これを抑えるのが消泡剤です。従来の消泡機能に加え、塗膜の低汚染性を妨げず、建物の外観品質と耐久性を向上させるサンノプコ株式会社の製品を紹介します。

 

塗装時の気泡を抑え美しさや保護機能を保つ

建築塗料は基本的に、好みの色で外観を美しくする「意匠性の付与」と、コーティングによる「建物の保護」という二つの役割を担っています。

この塗装を施す際に気を付けなければならないのが、気泡の発生です。気泡が残ると美観を損ねるだけでなく、壁と塗膜の密着不良や塗膜の強度低下によって保護機能が損なわれるなどの問題が起こります。

言い換えれば、気泡をなくすことでこれらの課題はおおむね解消できます。そのため塗料では、分散剤や湿潤剤などの添加剤を起泡しにくいものにして塗料自体の泡立ちを抑えたり、消泡剤を用いてできた泡を消したりといった対策が取られています。

ただ消泡剤は、それを入れることによって、周辺をはじいて塗装面のへこみを生じさせる「ハジキ」と呼ばれる現象や、塗膜の光沢を低下させるといった問題が起こりやすくなります。そのため消泡剤には、これらの不具合を抑える性能も求められます。

 

泡膜に入り込むことで泡を破裂させる

消泡剤は、鉱物油やシリコーンオイルなど、疎水性で表面張力が低い液体が主成分です。これらが液中で分散し、泡膜に入り込んで消泡効果を発揮します。

塗料の種類には水系と溶剤系があり、水系塗料には、鉱物油系、シリコーン系、ポリエーテル系の消泡剤が、溶剤系塗料には、シリコーン系やアクリル系のポリマーなどの消泡剤が、それぞれに使われています。消泡剤の成分によってはつやを落としてしまうものもあるため、塗料の「つやあり」、「つやなし」といった種類によっても適した成分を厳選し、組成の設計を行う必要があります。

 

消泡性と低汚染性を両立させた『SNデフォーマー395』

■セルフクリーニングのメカニズム(サンノプコ社推定)

この消泡剤を、長年開発、販売しているのがサンノプコ株式会社です。サンノプコ社は1966年に、アメリカ・ノプコケミカルカンパニーと三洋化成との合弁会社として誕生した会社です。以来、ノプコケミカルカンパニーの消泡技術に三洋化成の界面活性剤技術を組み合わせ、さまざまな分野で多くの消泡剤を開発してきました。汎用的な鉱物油系消泡剤をメインに、シリコーン系や植物油系など、お客様のニーズに合わせた消泡剤を多数上市しています。

『SNデフォーマー 395』は2011年に上市された製品で、ポリエーテルを主成分としています。

消泡性を発揮するには疎水性で表面張力が低いことが前提となるため、消泡剤にはシリコーン系の物質も多く使用されます。ただ、シリコーン系は疎水性が非常に高いため、外壁の塗装に使用した場合、同じ疎水性を持つ空気中の汚れ成分が吸着しやすく、雨でも流れにくいといった課題があります。塗膜の汚れが雨で流れやすい低汚染性(セルフクリーニング性能)を損なわないためには、消泡機能を維持しながら、高すぎず適度な疎水性に保つことが必要となります。

ポリエーテルを用いて、疎水性と表面張力のバランスを調整したのが『SNデフォーマー 395』です。シリコーン系と同等の消泡性を持ちながら、塗膜の低汚染性を損なわないため、シリコーン系よりも塗膜の美しさを維持することが可能になりました。加えてシリコーン系で発生しやすい「ハジキ」の現象も低減しており、低汚染対応の塗料に添加することで、外観品質と耐久性を向上させる消泡剤として広く紹介しています。

 

 

多様化する塗料の性能に対応

建築の分野では溶剤塗料を使うことによる臭気の問題などもあり、現在ほとんどが水系塗料に置き換わっています。また建築用塗料では低汚染性に加え、揮発性有機化合物の発生を抑える低VOC、雨風や日差しに強い高耐候性、熱を遮る遮熱性といった性能が付加、向上されており、性能の多様化によって使用される樹脂も複雑なものになってきています。

そのため消泡剤も、これらの機能を阻害しないあるいは補助する性能が必要となっています。サンノプコ社ではこうした樹脂の高機能化に合わせた開発を続ける一方で、環境にも配慮した組成設計の添加剤開発も進めています。

『SNデフォーマー 395』は現在、中国、東南アジア、インドなどにも展開していますが、これらの地域でも高級志向が進み、高機能な塗料が求められています。今後もインドを中心に、海外に広く普及させていく予定です。

塗料の低汚染性を損なわないため、建物の長寿命化に貢献できる『SNデフォーマー 395』は、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」に貢献する製品です。サンノプコ社では、今後も塗料のニーズに沿った添加剤の開発で社会に貢献していきます。

 

 

■SNデフォーマー 395 の性状 ■低汚染性試験(比較)

 

当社製品および開発品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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金型離型性と基材密着性を両立したナノインプリント用UV硬化樹脂 /magazine/archives/8442?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e9%2587%2591%25e5%259e%258b%25e9%259b%25a2%25e5%259e%258b%25e6%2580%25a7%25e3%2581%25a8%25e5%259f%25ba%25e6%259d%2590%25e5%25af%2586%25e7%259d%2580%25e6%2580%25a7%25e3%2582%2592%25e4%25b8%25a1%25e7%25ab%258b%25e3%2581%2597%25e3%2581%259f%25e3%2583%258a%25e3%2583%258e%25e3%2582%25a4%25e3%2583%25b3%25e3%2583%2597%25e3%2583%25aa /magazine/archives/8442#respond Fri, 11 Oct 2024 05:07:13 +0000 /magazine/?p=8442 高機能マテリアル事業本部 電材研グループ ユニットチーフ 宮本 佳介 [お問い合わせ先]同営業グループ   PDFファイル インプリント技術は、基板上に塗布された樹脂膜に金型(モールド)を押し当てて、これを離型…

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高機能マテリアル事業本部
電材研グループ ユニットチーフ 宮本 佳介
[お問い合わせ先]同営業グループ

 

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インプリント技術は、基板上に塗布された樹脂膜に金型(モールド)を押し当てて、これを離型してモールドに刻まれた微細パターンを樹脂膜に転写する技術である。この技術は、非常に細かい構造を高精度かつ効率的に作製することが可能で、半導体デバイス、光学デバイス、バイオメディカルなど多岐にわたる分野での応用が期待されている。近年では、デバイスの小型化などさらなる高性能化、高機能化を目的として、従来のマイクロオーダーより微細なナノオーダーでのインプリント技術であるナノインプリント技術が広がりを見せている。

本稿では、当社のナノインプリント用UV 硬化樹脂『サンラッド』シリーズについて紹介する。

UV硬化樹脂について

UV 硬化樹脂とは、紫外線(UV)を照射することで硬化する樹脂である。UV 硬化樹脂は、アクリルモノマーに代表されるさまざまな反応性モノマーやオリゴマーを組み合わせることで、要求される機械特性、電気特性、耐薬品性、耐熱性などのさまざまな特性に応じた機能が発現可能となる。そのため、ディスプレイや半導体などの電子材料だけではなく、インクや各種コーティング用途など幅広い分野、産業でUV 硬化樹脂が使用されている。また、揮発性有機化合物(VOC)成分となる有機溶剤を使用しない樹脂設計も可能であることから、近年では環境配慮の観点でもUV 硬化樹脂システムが注目を浴びている。

ナノインプリントについて

ナノインプリントの方式は、大きく「熱ナノインプリント方式」と「光(UV)ナノインプリント方式」とに分けられる1)

熱ナノインプリント方式では、樹脂膜として熱可塑性もしくは熱硬化性樹脂が使用される。熱ナノインプリントでは図1 に示す通り、「高温での加熱→冷却」の熱サイクルを伴うため、一般に生産効率が悪くなる。

図1 熱ナノインプリントとUVナノインプリントの比較

 

一方で、UV ナノインプリントはUV 硬化樹脂が使用され、短時間のUV 照射で樹脂を硬化させることが可能であり、生産効率が高いことが特徴である。またUV ナノインプリントでは、熱インプリントで必要な高温の温調設備が不要となるため、設備も比較的小型なもので設計できることから、省エネ、省スペース化の観点でも有利とされている。

ナノインプリントはその高い解像度、高い生産性、そして微細な構造の形成といった特長により、製品の性能向上や製造コストの削減につながることから、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイといった光学デバイスや、加速度計、圧力センサーなどのMEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)などの用途ですでに応用されている。

近年、急速に進展している自動運転、仮想現実(VR)/拡張現実(AR)、ロボット、生体認証などには、周囲の情報を多角的に把握するため、センサーやカメラが欠かせない。今後もさらなる高精度化のための搭載数の増加や用途拡大により、センサーやカメラの需要は拡大すると予測されている2)。ナノインプリント技術は、このようなセンサーやカメラを高精度・低コストに製造する方法として活躍が期待されている3)

金型からの離型性の高いナノインプリント用樹脂『サンラッド』

図2 『サンラッド』の連続成型プロセス例

図2に凹凸金型を用いたUV硬化樹脂の連続成型プロセス例を示す。そのプロセスは(1)UV 硬化樹脂の基材への塗工、(2)金型プレス、(3)UV 照射による硬化、(4)離形し基材上に金型から転写(インプリント)されたパターンを形成、の4工程からなる。ロール状のモールドを用いてこの工程を大量に連続して行うロール toロール方式は、効率のよい生産方法として広く適用されている。

ナノインプリントにより形状付与されたPET フィルムが所望の性能を発揮するためには、正確に金型の形状が転写される必要がある。そのためには、充填時に金型の隅々まで樹脂が隙間なく充填されるとともに、UV 硬化後の樹脂が割れたり変形したりすることなくきれいに金型から離型される必要がある。しかし、金型の形状が微細になればなるほど、このような割れや変形などの不具合による形状不良が発生しやすくなる。

また、パターンの転写精度や安定性の向上のためには、硬化後の樹脂が基材から剝がれないことも重要である。一般にUV 硬化樹脂では、金型からの離型性を向上させるために離型剤が添加される。しかしながら、通常の離型剤は基材とフィルムの密着性も低下させてしまう。そのため使用量が制限されることが多く、離型性と密着性を両立することは困難であった。

これに対し、当社が開発した特殊な離型剤は、構造を最適化することで金型と接する面に選択的に集まりやすいよう設計されている(図3。これにより、基材フィルム側に離型剤成分が残存しにくいため、基材との密着性を損なうことなく高い金型離型性が発現できる(表1)。当社『サンラッド』シリーズは、この離型剤の技術を活用することで基材密着性と高い転写性能の両立を可能にしている(図4)。

図3 金型に選択的に集まる性質を持つ当社の特殊離型剤

図4 サンラッドシリーズで作製したさまざまな微細形状

表1 金型離型性と基板密着性

 

ナノインプリントでの用途拡大に向けた新規開発

表2 『サンラッド』の代表例

これまで当社では、インプリント用UV 硬化樹脂としてさまざまな製品を上市してきた。代表的な例としては、耐擦傷性に優れた高復元性タイプの『サンラッド TF-01』や、微細成型用としての『サンラッド FM-01』などがある。しかしながら、これまでのラインナップでは比較的粘度が高いものが多く、金型の形状によっては液の入り込み性が悪くなり、転写不良を起こすケースがあった。また、ガラス転移点(Tg) は50 ℃ 程度と高くはなく、弾性率も比較的低いため、耐熱性や樹脂強度が要求される用途では適用が難しかった。

これらの課題を解決するため、今回新たに『サンラッドFM-03』を開発した。本品は無溶剤でありながら低粘度であるため、従来プロセスでも金型への液の入り込み性が向上できるものと考えており、より微細で複雑な形状への適用拡大が期待される。また、ガラス転移点、弾性率が高いため耐熱性や樹脂強度が要求される用途への適用も期待される(表2)。

ただし、UV 硬化樹脂に要求される特性はユーザーの用途や使用方法により異なるため、多様化するニーズに合わせて細かなカスタマイズが必要になってくる。これまでの開発で得られた膨大な知見により、そのようなユーザーニーズに迅速に対応し、最適な樹脂組成を提案できるのも当社の強みである。

終わりに

今後もARやVR技術の進化、ウェアラブルデバイスに代表される各種デバイスの発展などに伴い、UV 硬化樹脂にはさらなる高性能化、高機能化が求められている。また、省エネの観点で、光源は従来の高圧水銀灯やメタルハライドランプなどからLED 光源へのシフトが進んでいくものと考えられる。このようなさまざまな顧客要望に応えるべく、これからも開発に注力してさらなるラインナップの拡充に努めていきたい。

参考文献
1)精密工学会誌/ Journal of the Japan Society for Precision Engineering Vol.86, No.4, 2020
2)株式会社富士キメラ総研「2023 センサーデバイス関連市場総調査」
3)「ナノインプリント技術の基礎解説、自動運転やAR に影響与える微細加工技術」ビジネス+ IT
https://www.sbbit.jp/article/cont1/40685,(参照:2024-7-8)

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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より安全に、薬を効かせたい場所に届ける技術 /magazine/archives/8102?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e3%2582%2588%25e3%2582%258a%25e5%25ae%2589%25e5%2585%25a8%25e3%2581%25ab%25e3%2580%2581%25e8%2596%25ac%25e3%2582%2592%25e5%258a%25b9%25e3%2581%258b%25e3%2581%259b%25e3%2581%259f%25e3%2581%2584%25e5%25a0%25b4%25e6%2589%2580%25e3%2581%25ab%25e5%25b1%258a%25e3%2581%2591%25e3%2582%258b%25e6%258a%2580%25e8%25a1%2593 /magazine/archives/8102#respond Thu, 11 Jul 2024 06:20:34 +0000 /magazine/?p=8102 PDFファイル 経口固形医薬品用コーティング剤『ポリキッドPA-30』 経口固形医薬品用コーティング剤は、固形の飲み薬に使用されるもので、薬を包むことで、飲みやすさや保存性を向上させたり、成分を必要な場所に的確に届ける役…

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経口固形医薬品用コーティング剤『ポリキッドPA-30』

経口固形医薬品用コーティング剤は、固形の飲み薬に使用されるもので、薬を包むことで、飲みやすさや保存性を向上させたり、成分を必要な場所に的確に届ける役割などを果たしています。薬の効能を最大限に引き出すために使用される製品を紹介します。

ほとんどの固形の飲み薬に使用されているコーティング剤

私たちが病気の際に口にする経口固形医薬品、いわゆる固形の飲み薬には、大きく分けて、錠剤、顆粒、カプセルの3種があります。

通常、薬の有効成分は、直接口に含むと苦くて飲みにくいものや、光や湿気、酸素に弱いものが多いため、多くの経口固形医薬品にはコーティング剤が使用されており、苦みや臭気のマスキング、のどの通りやすさ、保存性の向上、着色などの役割を果たしています。それに加えてコーティング剤は、体内で有効成分の放出を制御するという重要な役割も担っています。

 

薬効を最大に引き出すドラッグデリバリーシステム

通常飲み薬は、食べ物と同様、胃を経由して細かくなり、有効成分が主に小腸から体内に吸収されます。この際、「必要な量を」「必要な時に」「必要な場所で」放出するよう制御することで、治療効果を向上させたり、副作用を低減したりすることができます。このような薬の制御システムをドラッグデリバリーシステム(DDS)といいます。

DDSはこうした薬効の向上だけでなく、少ない有効成分で多くの医薬品を製造できることから、生産量の限られた有効成分でも薬として多くの患者さんに届けられたり、コストを抑えることで安価に医薬品を提供できたりするというメリットもあります。

このDDSには、いくつかの制御機能があります。代表的なものとしては、一つは「徐放性」。体内で徐々に溶けていくため、服用回数を減らせるうえ、必要な濃度を必要な時間維持できるので、治療効果を向上させることができます。

また胃で溶けずに腸で溶ける機能「腸溶性」は、胃酸に弱い有効成分を効率的に小腸に届けることができるほか、胃に負担をかける有効成分が胃を荒らすといった副作用を低減することもできます。

さらに現在では、例えばがん細胞など、ターゲットとなる特定の細胞だけに有効成分を集中させ、副作用を極力抑えるような、標的指向型と呼ばれる高度なDDSも活用されています。

 

有効成分を胃液から守り、的確に小腸まで届ける『ポリキッドPA-30』

こうしたDDSの機能のなかで、「腸溶性」のコーティング剤として、広く活用されているのが三洋化成の『ポリキッドPA-30』です。胃で溶けずに小腸で溶けるのが最大の特徴で、有効成分を胃液から守ったり、胃への副作用を防いだりしながら、有効成分を小腸まで届かせる役割を果たします。

この『ポリキッドPA-30』は、三洋化成が2003年に上市した医薬品添加物です。当時、「腸溶性」のコーティング剤はドイツのメーカーだけが保有していた製品でしたが、国内製薬メーカーから国産化の要望を受け、開発しました。

『ポリキッドPA-30』は、アクリル酸エチルとメタクリル酸の二つのモノマーからなる共重合体です。このポリマーは、pHによって溶解性が変わる「pH応答性ポリマー」と呼ばれるもので、胃のpH1.2~3.5の消化液には溶けず、小腸のpH5~7の消化液に溶ける性質を持っています。そのため、医薬品の有効成分をこのポリマーでコーティングすることで、有効成分を効率的に腸まで届けることができるのです。

こうした特性を生かし、『ポリキッドPA-30』は、酸に弱い性質を持つ胃潰瘍の治療薬や、胃障害を引き起こす恐れのある解熱鎮痛剤など、さまざまな医薬品のコーティング剤に使用されています。

また医薬品添加物に一番に求められる安全性の面でも、有機溶剤を含まない水分散系の製品であることや、生物由来の原料を使用していないといった特長を持っています。さらに生産についても、製造設備や品質管理における厳しい基準を満たした体制を構築しており、厳格な管理体制のもと、信頼性の高い製品を安定供給しています。

 

世界の人々が求める医薬品を、安価かつ安定的に提供する

『ポリキッドPA-30』は、日本の医薬品添加物規格(JPE)だけでなく、アメリカやヨーロッパの薬局方(USP-NF、EP)に対応しており、世界中の国で使用されるポテンシャルを持っています。世界に向け、多くの人が求める医薬品を、安価かつ安定的に提供するという意味でも、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に貢献できる製品といえます。三洋化成では引き続き『ポリキッドPA-30』活用の場を、途上国も含めたあらゆる国々に広げていきたいと考えています。

一方で、これまでは低分子の医薬品がメインだったため、医薬品添加物もこれらを対象にしたものが主流でしたが、現在は抗体医薬のような高分子医薬品、ペプチドや核酸といった中分子医薬品など多様な医薬品の開発が進み、新たな医薬品添加物が求められています。さらにQOL向上や医療費の低減といった課題への対応も急務で、DDSへのニーズは、今後もさらに多様化し、加速していくことが予測されます。

三洋化成は『ポリキッドPA -30』だけでなく、『マクロゴール』シリーズなどの医薬品関連製品を多数保有しており、これらをベースに、新たなニーズに対応できる製品開発も進めています。今後も、これらの製品を組み合わせた最適な処方の提案や、新技術の開発を進め、世界の人々の健康とQOL向上に貢献していきます。

 

■ポリキッド PA-30 の製品情報

 

当社製品および開発品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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人工タンパク質『シルクエラスチン®』を用いた再生医療機器の開発 /magazine/archives/8148?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e4%25ba%25ba%25e5%25b7%25a5%25e3%2582%25bf%25e3%2583%25b3%25e3%2583%2591%25e3%2582%25af%25e8%25b3%25aa%25e3%2580%258e%25e3%2582%25b7%25e3%2583%25ab%25e3%2582%25af%25e3%2582%25a8%25e3%2583%25a9%25e3%2582%25b9%25e3%2583%2581%25e3%2583%25b3%25e3%2580%258f%25e3%2582%2592%25e7%2594%25a8%25e3%2581%2584%25e3%2581%259f /magazine/archives/8148#respond Thu, 11 Jul 2024 06:16:54 +0000 /magazine/?p=8148 Siela Project プロジェクトリーダー 川端 慎吾 [お問い合わせ先] Siela Project マーケティンググループ   PDFファイル 細胞足場材『シルクエラスチン®』とは 細胞足場材は、生体…

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Siela Project プロジェクトリーダー 川端 慎吾

[お問い合わせ先]
Siela Project マーケティンググループ

 

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細胞足場材『シルクエラスチン®』とは

細胞足場材は、生体内の細胞の増殖や分化を促進させる環境をつくり出すものである。そのため、損傷した組織の一部を修復したり、置き換えたりする再生医療において、組織再生を誘導・促進する極めて重要な役割を担っている。

シルクエラスチンは、天然由来のタンパク質であるエラスチンとシルクフィブロインを模倣し、遺伝子組み換えによって作製された人工タンパク質である(図1、2)。分子内にエラスチン由来配列を多く含むため、細胞親和性(炎症を起こさずに細胞になじむ特性)が高く、かつ弾性(生体組織にハリを与える特性)に富むことから、細胞足場材に適していると考える。シルクエラスチンは水に溶けると、低温では液体であるが、加温することにより水溶液の粘度上昇が進み、最終的にゲル化する(図3)。一度ゲル化すると液体に戻ることはなく、このゲル化物は、皮膚を含む軟組織に近い弾性を有する。さらに、当社は独自の界面制御技術により、シルクエラスチンをさまざまな密度や厚みのスポンジ形状(シルクエラスチンスポンジ)やフィルム形状(シルクエラスチンフィルム)に加工することを可能にした(図4)。これにより、細胞足場材としての生物学的、力学的環境を最適化することができる。本稿では、これらの性質を生かして開発中の医療機器について紹介する。

 

 

創傷治癒材の開発

従来の創傷治療に用いる医療機器は、図5で示す通り、創傷の深さと菌感染のリスクに応じて使い分けられている。比較的浅い創傷では、「湿潤環境の維持」を目的に創傷被覆材や軟こうが使われる。そのなかで菌感染リスクが低い創傷では、カルボキシメチルセルロース(CMC)などが用いられ、菌感染リスクが高い創傷では、静菌作用を有する銀イオン配合のハイドロコロイドなどが用いられる。創傷治癒材としてのシルクエラスチンの特長は、スポンジ形状のシルクエラスチンを創面の形に合わせて投与すると、体液(滲出液)を吸収・溶解した後、患部に広がり体温でゲル化するため、創傷被覆材や軟こうに比べて複雑な創傷部においても高い密着性と追随性を発揮できる点である。創傷面上でゲル化したシルクエラスチンゲルは「湿潤環境の維持」に加え、創傷面の安静を保つ「創傷の保護」機能を有する。また、細胞親和性が高いため、炎症期や増殖・成熟期に必要な細胞の遊走・増殖を促進する(「創傷治癒促進」)。さらに、シルクエラスチンは菌感染拡大に対する抵抗性が高いため、菌感染リスクが高い創傷においても有効な創傷治癒材となり得る。臨床現場で求められている菌感染に強くかつ創傷治癒促進効果が高い創傷治癒材に対して、本品は非常にニーズを捉えているといえる。

これまでに、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の平成28年度産学連携医療イノベーション創出プログラム(ACT-M)の支援のもと、医師主導治験(京都大学)にて安全性を確認、平成31年(令和元年)度 医工連携事業化推進事業の支援のもと、企業治験にて有効性を確認し、いずれも良好な結果が得られている。今後は上市に向けて薬事承認などの販売準備を進めていく。

 

半月板再生材の開発

近年の高齢化社会では平均寿命ではなく、心身ともに健康的に生活できる「健康寿命」を延ばすことが重要とされている。健康寿命を短くする(要介護になる)因子としては運動器の障害が2割を占め、そのなかでも「関節疾患」が大きな割合を占めている(10.9%)。高齢者の「関節疾患」において最も多いのは、変形性関節症(Osteoarthritis:OA)である。OAを有する人数は約3000万人とされ、そのなかの約1000万人が痛みなどの症状を有するとされている)1。変形性膝関節症(膝OA)は、患者の生活の質(QOL)や健康寿命が大きく低下することから、できるだけ元の状態に修復することで膝OAを予防することが求められている。

膝関節には、骨の周辺にある靭帯、腱、筋肉以外に、関節が摩擦なく動くように骨の表面を覆い、弾力のある「関節軟骨」や、膝関節の衝撃を吸収するクッションの役割を担う「半月板」などがある。半月板はその名の通り半月の形をしており、膝の内側、外側それぞれにある(図6)。関節軟骨や半月板は、摩擦や衝撃を低減して関節を滑らかに動かすために重要な組織であるが、加齢やスポーツなど、繰り返しの負荷が原因で損傷・変形してしまう。これらの組織が損傷・変形してしまうと、歩行時の痛みやひっかかりを感じる、曲げ伸ばしが全くできない状態になる、炎症を起こし水や血液がたまるなどさまざまな症状を引き起こす。人間の身体には本来、組織修復能力が備わっているが、血液やリンパ液に乏しく、常に高い負荷のかかる関節軟骨や半月板は、一度損傷すると非常に修復が困難な組織として認識されている。関節軟骨については、近年患者自身の細胞(自家細胞)を用いて組織を再生する医療製品が開発されているが、半月板の修復・再生についてはまだ再生技術は確立されていない。

これまで、半月板の損傷・変形に対しては、「関節鏡視下半月板部分切除術」により半月板を切除する対症療法が主流であった。しかし、半月板の切除は一部であっても膝の機能に大きな影響を及ぼし、後に膝OAを生じて曲げ伸ばしや歩行が困難になる原因になってしまうことがわかってきており、できる限り半月板縫合術による修復が試みられている。実際、近年では半月板を温存する関節鏡視下半月板縫合術が増加している(図7)。しかし、損傷の程度や範囲によって縫合術が不可能な場合も多い。また、縫合術が行えた場合でも、もともと治癒能力が低く変形も加わった半月板の治療には限界があり、完全に治癒することは困難であった。

シルクエラスチンは、前述の創傷治癒材の開発のなかで、得られた細胞に対する作用機序から、半月板再生にも寄与できるものと考えられた。そこで半月板縫合術時にシルクエラスチンを患部に投与することで、半月板同士の再生・癒合を促進させる医療機器の開発を進めてきた。平成30年度産学連携医療イノベーション創出プログラム・セットアップスキーム(ACT-MS)の支援のもと、ウサギやブタを用いた動物実験にて、シルクエラスチンの半月板に対する組織再生効果を確認した。また、令和2年度ACT-Mの支援のもと、従来法では縫合しても良い結果が得られにくいような難しい症例の17歳から52歳の男女8人を対象に、医師主導治験(広島大学)にて安全性を確認した。

その結果、特段の有害事象が認められず、安全に使用できることがわかった。また、全ての患者で半月板の癒合を確認し、うち6例では術後3カ月で完全癒合していた。今後、令和6年度医工連携イノベーション推進事業の支援のもと、企業治験にて有効性の確認を進めていく予定である。

 

今後の展開

創傷治癒材や半月板再生材の開発において、シルクエラスチンは組織修復を促進させる効果を有することが見いだされた。その特性を生かし、「治りにくい傷を治す」をコンセプトに難治性の気管支塞栓材や筋肉再生材の開発にも着手している。気管支塞栓材は肺がんなどで肺切除した際にできる気管支断端からの空気漏れを防ぐために使用される。プラグ状に加工したシルクエラスチンを気管支に詰めることで、空気漏れを防ぎながら気管支断端の組織再生を促進させる。このように、最終的には自らの組織で気管支断端を閉鎖させるような気管支塞栓材は従来治療にはなく画期的な医療機器となりうる。

一方、筋肉再生材は、スポーツや日常生活のなかで、筋肉の断裂などにより筋肉損傷が生じた際に用いる。従来治療では、有効な手段がないのが現状である。シルクエラスチンを筋肉損傷部に投与することで、筋肉再生に必要な細胞を引き寄せ、筋肉再生を促進する効果が動物実験にて確認できている。

シルクエラスチンはこれまで治療が難しかった傷を治す画期的な医療機器として、高いポテンシャルを有する素材である。当社は、シルクエラスチンを国内初の遺伝子組み換え技術を用いた医療機器として、創傷治癒材の上市後、さまざまな用途展開を図るとともに、海外展開も視野に入れて開発を進めていく。そして、高齢者をはじめとするさまざまな患者のQOLを向上できる素材として、育成していく。

 

参考文献:1)平成20年介護予防の推進に向けた運動器疾患対策に関する検討会(厚生労働省)

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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多彩な分野で活躍する、ポリウレタンフォームを支える技術 /magazine/archives/7708?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e5%25a4%259a%25e5%25bd%25a9%25e3%2581%25aa%25e5%2588%2586%25e9%2587%258e%25e3%2581%25a7%25e6%25b4%25bb%25e8%25ba%258d%25e3%2581%2599%25e3%2582%258b%25e3%2580%2581%25e3%2583%259d%25e3%2583%25aa%25e3%2582%25a6%25e3%2583%25ac%25e3%2582%25bf%25e3%2583%25b3%25e3%2583%2595%25e3%2582%25a9%25e3%2583%25bc%25e3%2583%25a0%25e3%2582%2592 /magazine/archives/7708#respond Thu, 11 Apr 2024 05:59:18 +0000 /magazine/?p=7708 PDFファイル ポリウレタンフォーム用ポリオール『サンニックス』シリーズ ポリウレタンフォームは、セルと呼ばれる気泡を有するスポンジ状の樹脂です。クッションのような柔らかいもの(軟質)から断熱ボードなど硬いもの(硬質)ま…

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ポリウレタンフォーム用ポリオール『サンニックス』シリーズ

ポリウレタンフォームは、セルと呼ばれる気泡を有するスポンジ状の樹脂です。クッションのような柔らかいもの(軟質)から断熱ボードなど硬いもの(硬質)まであり、用途によって硬さを変えたり、さまざまな機能を付加することができます。幅広い分野で利用されているポリウレタンフォームの原料となる製品を紹介します。

樹脂化反応が生み出すポリウレタンフォーム

ポリウレタンは、ポリオールなどの活性水素を有する化合物を、反応の開始物質(出発物質)とし、そこにNCOという官能基を持つ化合物ポリイソシアネートを反応させてできる樹脂の一つです。このポリウレタンを発泡させ、内部にセル(気泡)を持たせたものを、ポリウレタンフォーム、またはウレタンフォームと呼びます。

ポリオールとポリイソシアネートをそのまま反応させると、セルのないポリウレタン樹脂が出来上がります。この反応を樹脂化反応と呼びます。ポリウレタン樹脂は、靴底や合成皮革、リュックサックなどウレタン繊維で編んだような製品、陸上競技のトラックなど、防水性がありゴムのような感触のもの、家具やフローリング、ベランダなどの塗装、接着剤、シーリング材など塗膜形成能や密着性を生かした用途などに使われています。

樹脂化反応の際に、水などの起泡剤を加えると、水とポリイソシアネートが反応し、CO2が発生します。するとこのCO2が樹脂内部にセルを形成します。これを泡化反応と呼びます。ポリウレタンフォームは、この樹脂化反応と泡化反応の二つの化学的な反応を同時に起こすことで完成する多孔質の樹脂です。

 

硬さを調整するカギは分子の長さと分子をつなぐ官能基の数

ポリウレタンフォームは、軟質から硬質まで、さまざまな硬さに調整できるのが特徴です。そのため、自動車の内装材や家具、マットレスや枕といった寝具、衣類、建材など、さまざまな分野で活用されています。またそのなかで、軟質ポリウレタンフォームを取り上げてみると、一般的な出荷量では、自動車の分野が半数以上と最も多く、次いで寝具の分野で数多く利用されています。寝具でよくPRされている低反発や高反発といった機能も、一部はポリウレタンフォームの硬さを調整することで実現しています。

ポリウレタンフォームの硬さは、基本的には分子の長さと分子同士をつなぐ官能基の数で変わってきます。軟質の場合は、分子が長くそれらをつなぐ官能基数も少ないので、伸び縮みの幅が大きくなり柔らかいフォームになります。一方硬質の場合は、分子が短く、多くの官能基で分子同士をつなぐため、硬いフォームになります。こうした硬さの違いを出すための分子の長さや官能基の数は、使用する原料の分子設計や配合設計などによって実現されています。

ポリウレタンフォーム原料のなかでも、特にアルコールなどの活性水素を有する出発物質に、アルキレンオキサイド(AO) の一種であるプロピレンオキサイド(PO)やエチレンオキサイド(EO)などを高圧重合で付加して製造するポリプロピレングリコール(PPG / ポリエーテルポリオールの1種)は、出発物質の種類、官能基数に関わる活性水素の数、AOを付加する数、付加する位置、その配列など、バリエーション豊富に設計することが可能なため、広く活用されています。

三洋化成の『サンニックス』シリーズはその代表的な製品であり、国内のほとんどのポリウレタンフォームメーカーで使われ、海外でも数多く使用されています。

 

アメリカからの技術を導入し生まれた製品

三洋化成では1960年に国産第1号となるポリウレタンフォーム用のPPGを開発し、『サンニックス』の名称で上市しています。一つのきっかけは1955年にアメリカで農薬乳化剤の技術を学び、持ち帰った高圧重合の技術です。当時はあくまで乳化剤となるEOの付加重合物の製造が目的でした。

その後の1959年、三洋化成は、アメリカでウレタンフォームの原料に、PPGが使われ始めたという情報をキャッチします。くしくも日本では石油化学が拡大し始めていた頃で、将来の需要が伸びると予測した三洋化成は、日本でのポリオールのパイオニアを目指し、開発に着手しました。

同年には、ポリオールのプロセス開発と並行して、当時の資本金のほぼ倍の金額を投資し、以前アメリカで学んだ高圧重合の技術を用いたPPGの生産工場を建設します。ただし、開発は一筋縄ではいかず、研究から製造、商品化まで、あらゆる段階で何度も失敗を繰り返す苦難を乗り越え1960年、商品化に成功したのでした。

翌1961年からは、データに基づく技術営業を始めます。当初は寝具用マットレスフォームが主流でしたが、さまざまな分野に展開し、『サンニックス』シリーズは、現在では三洋化成の基盤事業の一つになっています。

 

新中期経営計画2025を推進中

現在ポリウレタンフォームは、業界を挙げてリサイクルやバイオマス原料の活用といった、環境に配慮した開発の機運が高まっています。製品そのものについても、例えば寝具での消臭機能の付加など、QOLの向上に対する新たなニーズも高まっています。

このような時代の変化に合わせて、三洋化成でも新中期経営計画2025において、環境負荷低減などの社会課題の解決やQOLの向上を基本方針に掲げ、ウレタン事業でも環境への配慮や付加価値を持たせた製品開発を進めています。その一方で、「ものづくり大改革」も推進しており、生産プロセスの改善や、原料とその調達先の見直しも含めたサプライチェーン全体での効率化、生産工程におけるCO2削減などにも取り組んでいます。

幅広い分野で活用されているポリウレタンフォームは、SDGsの観点からもさまざまな役割を担う製品です。今後も、新たな製品の開発や環境負荷低減に向けた活動にチャレンジしていきます。

 

 

当社製品および開発品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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匂いセンサー『FlavoToneⓇ』の開発  /magazine/archives/7745?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e5%258c%2582%25e3%2581%2584%25e3%2582%25bb%25e3%2583%25b3%25e3%2582%25b5%25e3%2583%25bc%25e3%2580%258eflavotone%25e2%2593%25a1%25e3%2580%258f%25e3%2581%25ae%25e9%2596%258b%25e7%2599%25ba%25e3%2580%2580 /magazine/archives/7745#respond Thu, 11 Apr 2024 05:58:29 +0000 /magazine/?p=7745 デジタル嗅覚事業創造部 ソリューション開発グループ グループリーダー 石田 智信 [お問い合わせ先] 同 マーケティンググループ   PDFファイル 匂いセンサーとは (1)匂いとは何か? 私たちは日常のなかで…

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デジタル嗅覚事業創造部 ソリューション開発グループ
グループリーダー 石田 智信
[お問い合わせ先]
同 マーケティンググループ

 

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匂いセンサーとは

(1)匂いとは何か?

私たちは日常のなかで匂いを感じながら生活している。匂いの正体は、嗅細胞を刺激する作用を持つ種々の匂い物質であり、その数は約40万種類にも及ぶといわれる。多くの場合、匂いはこれらさまざまな匂い物質が複雑に混ざった混合物であり、私たちが「違う匂いだ」と感じる現象は、吸い込んだ気体に含まれる匂い物質の種類や濃度の違いによって引き起こされる(図1)。

 

(2)嗅覚の仕組み

鼻の奥には、匂い物質によって刺激される嗅細胞と呼ばれる細胞が存在する。嗅細胞の表面には、嗅覚受容体(人間の場合は約400 種類1))と呼ばれるタンパク質がある。この嗅覚受容体に匂い物質が結合することで嗅細胞が刺激され、これが電気信号として脳に伝わる。

それぞれの嗅覚受容体の立体構造は互いに違うため、この違いによって、匂い物質に対する結合度合(親和性)が受容体ごとに変わり、嗅細胞はそれぞれ異なる刺激を受ける。

脳は嗅細胞から送られた刺激を図2 に示すようなパターンとして処理することで、匂いの違いを捉えている。このように、嗅覚受容体・嗅細胞・脳が連携してはたらくことによって、私たちは匂いの有無や匂いの違いなどを認識している。

 

 

(3)匂いセンサーが提供する機能

私たちの嗅覚は大変高度に発達していて、例えば、おいしそう、心地良いといった情緒的価値を感じたり、食べ物の腐敗や有毒ガスなどの危険から身を守ったりすることができる。

当社が開発を進めている匂いセンサー※『FlavoTone』は、私たちの嗅覚と同様、匂いの違いをセンシングするデバイスである。嗅覚の機能をデバイス化することで、匂いをデジタルデータとして記録したり、匂いの感じ方の個人差を取り除いたり、匂いを24 時間365 日モニタリングしたりすることが可能となり、私たち人間には困難であった新たな価値を提供できる。

※「匂いセンサー」と題された技術・製品の提供機能に関する定義には揺れがあるため、混同しないよう注意する必要がある。本稿における「匂いセンサー」という用語は、匂いの違いをセンシングする技術、製品を指す。

 

匂いセンサーの測定の仕組み

(1)匂いの検出原理

『FlavoTone』では嗅覚受容体に相当する「匂い応答材料」に、当社独自設計に基づいた樹脂材料、添加剤、導電材料を用いている。この応答材料は、匂い物質の吸着によって電気抵抗が増加する特性を持つ。この特性を利用すると、嗅細胞に相当する「プローブ」で、匂いの強さ(≒匂い物質の濃度)に相当する情報を検出することができる(図3)。

 

 

匂い応答材料に吸着した匂い物質は、周囲が無臭状態に戻ると材料から脱離していくため、素子の電気抵抗は元に戻る。このことによって『FlavoTone』はさまざまなサンプルを短時間で連続して測定したり、匂いが変化する環境で長時間連続して測定したりすることができる(図4)。

 

 

(2)匂い識別の仕組み

前述のように『FlavoTone』には、匂い物質を吸着する性質が異なる複数の「プローブ」が搭載されている。これは、私たちの嗅覚器官が多数の嗅覚受容体を備えていることに対応している。『FlavoTone』は各プローブの電気抵抗変化をそれぞれ測定しており、嗅細胞が脳に伝える電気信号と同様に、匂いをパターンとして記録できる。このようにして得られたセンサーのデータをAI 技術などによって、さまざまな数値処理を行うことで、嗅覚と同じように匂いの違いを捉える機能を提供する。嗅覚との対比を表1にまとめた。

 

『FlavoTone』の使い方

(1)液体や固体の匂いを測定する

飲料や薬品などの液体や、食品や工業製品のシート状・粉末状・塊状・フィルム状などさまざまな形状を持つサンプルの匂いを測定する場合には「卓上機」(図5)を用いて図中①~④に示す手順で簡便に測定することができる。

 

〈測定事例1:コーヒー豆の測定〉

市販の焙煎したコーヒー豆3種類(キリマンジャロ、マンデリン、グアテマラ)の測定を行った。解析の結果、3 種類のサンプルの違いを捉えることができた。図6-a では、サンプル別にプロットを色分けした。同色のプロットは繰り返しの測定点を示し、同色プロット群同士の距離が大きいほど、匂いの違いがはっきりしていることを意味する。また、同色プロット群同士が斜めの位置にあると、匂いの成分の違いが大きいことを意味する。

 

〈測定事例2:再生プラスチックの臭気比較〉

近年、脱炭素へのニーズから再生プラスチックの利用検討が進んでいるが、新品プラスチックとは異なる不快な臭気があることが知られている。新品ポリプロピレン(PP)と再生PP のペレットをブランク(無臭サンプル)とそれぞれ測定して比較すると、新品PP は無臭に近く、再生PP は新品PPとは異なる臭気があることが確認できた(図6-b)。

 

(2)空間に広がった匂いを測定する

前述のようなサンプルから発生する匂いの測定とは異なり、部屋の中など比較的広い空間で起こる匂いの変化を捉え、その状態を識別することを目的とした測定に対しては、「小型機(開発品)」(図7)による測定を提案している。

 

〈測定事例3:当社内トイレにおける臭気の測定〉

当社内男子トイレの小便器付近にセンサーを設置し、正常(無臭)/ 尿臭あり/ 大便臭あり/ 吐しゃ物臭ありの状態を識別させることを目標として、尿・大便・吐しゃ物を模擬したサンプルをセンサー周辺の床面に散布する実験を行った(図8)。その測定・解析フローを図9 に示した。測定および解析の結果、開発途上ではあるが無臭と尿臭ありの状態を識別できることを確認している。トイレの臭気を匂いセンサーでモニタリングすることで、適切なタイミングで汚れに合わせた効率の良い清掃を提案することができる。現在、センサーの小型・省電力化や、対応できる臭気の拡張などへ向けて開発を進めている。

 

今後の予定

当社は『FlavoTone』のレンタルや受託分析に加え、個別の課題に対するソリューション提案なども行っている。今後、多様化する消費者ニーズや、複雑化する社会課題に対し、顧客との共創を通じて、より良い社会インフラづくりに貢献していく。

 

参考文献

1)塩田清二 他,「においのセンシング、分析とその可視化、数値化」:第1 章 第1 節 解剖生理学的にみた香りによる嗅覚受容メカニズム,技術情報協会,p3-9(2021)

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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金型離型性と基材密着性を両立し、ナノレベルの成型を可能に /magazine/archives/7502?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e9%2587%2591%25e5%259e%258b%25e9%259b%25a2%25e5%259e%258b%25e6%2580%25a7%25e3%2581%25a8%25e5%259f%25ba%25e6%259d%2590%25e5%25af%2586%25e7%259d%2580%25e6%2580%25a7%25e3%2582%2592%25e4%25b8%25a1%25e7%25ab%258b%25e3%2581%2597%25e3%2580%2581%25e3%2583%258a%25e3%2583%258e%25e3%2583%25ac%25e3%2583%2599%25e3%2583%25ab%25e3%2581%25ae /magazine/archives/7502#respond Fri, 19 Jan 2024 01:52:54 +0000 /magazine/?p=7502 PDFファイル インプリントリソグラフィは、物質の表面に微細なパターンを転写し、さまざまな機能を持たせる加工技術です。 単純なプロセスで、加工精度の高い微細な加工を大きな面積に施せることから、さまざまな分野で注目されてい…

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インプリントリソグラフィは、物質の表面に微細なパターンを転写し、さまざまな機能を持たせる加工技術です。
単純なプロセスで、加工精度の高い微細な加工を大きな面積に施せることから、さまざまな分野で注目されています。
この高精度な微細加工を可能にするUV硬化樹脂を紹介します。

 

活用が広がる光インプリント

インプリントリソグラフィは、フィルムなどの基材の表面に樹脂を塗布し、金型を押し当てて固めることで表面にさまざまなパターンを成型する技術です。樹脂を固める方法には、熱を加えて固める熱インプリントと光を照射して固める光インプリントがあります。

熱インプリントは樹脂を熱で溶かして基材に塗布し、金型を押し当ててから冷却するため、固まるまでに時間がかかります。一方の光インプリントは、樹脂を基材に塗布して金型を当て、光(主に紫外線)を照射することで固めます。露光は数秒と短時間で固まるうえ、熱インプリントのように高熱をかける必要がないため、使用するエネルギーが少ないメリットもあります。また、熱インプリントに用いられる熱可塑性樹脂は粘度が高く、金型の凹凸の隅々まで入りこむことは困難ですが、光インプリントに使用するUV硬化樹脂は粘度が低く、より微細なパターンの成型が可能です。

現在こうした微細加工の技術としては、感光性の樹脂などを塗布した表面を、パターン状に露光、現像して固めるフォトリソグラフィが代表的です。一方、光インプリントは、現像工程が不要で金型を押し当てて光を照射するだけの単純なプロセスのため、簡易な装置で加工でき、大面積加工も容易で、工程短縮と低コスト化につながります。また、現像工程が不要なため、余分な樹脂や現像液などの廃棄がなく、環境性能にも優れています。さらに、フォトリソグラフィでは困難だった曲面などの非平面へのパターン成型や、高アスペクト比構造、3次元構造などのパターン成型も可能です。これらのメリットから、微細加工が必要な分野では光インプリントの需要が拡大しています。

 

ディスプレイの性能を支えるUV硬化樹脂

光インプリントが最も多く使われているのが光学フィルムです。

光学フィルムは、テレビの液晶画面やスマートフォンのタッチパネルなど、さまざまなディスプレイに使われている材料です。フィルム表面に、ナノレベルの微細な加工を施すことで、光の通過や反射、吸収といったさまざまな機能を持たせています。ディスプレイは、これらの機能を持った複数の光学フィルムを重ね合わせることで、画像や映像をより美しく、鮮明に見せています。

光を照射することで固まるUV硬化樹脂は、この光学フィルムの微細なパターンを加工するためには欠かせない材料になっています。

 

金型から離れやすく、細かい傷も回復する『サンラッド』

三洋化成では2000年代からインプリント用UV硬化樹脂の開発に着手し、需要拡大に伴い、グレードを取り揃えてきました。こうした開発で蓄積した知見をもとに、2010年頃に上市した製品が『サンラッド』シリーズです。

インプリント用のUV硬化樹脂に求められる一番の機能は、ナノレベルで割れや欠けのない細かいパターンを正確に転写できることです。それには樹脂が基材に密着する「密着性」と、金型から離れる「離型性」とのバランスが重要になります。

『サンラッド』の特徴の一つがこの離型性の良さです。UV硬化樹脂には、金型から樹脂を離れやすくするための離型剤が含まれています。離型剤は、通常であれば金型側だけでなく、基材側にも作用するため、離型性を強くすると樹脂が基材から剥がれてしまう事態も起こり得ます。一方『サンラッド』に含まれる離型剤は、特異的に金型側にのみ働くよう設計されているため、金型から離れやすいにもかかわらず、基材からは剥がれにくくなっています。そのため、高価な金型にはダメージをほとんど与えず、多彩なパターンを、割れや欠けなどがなく正確に転写できる特性を持っています。

また、傷回復性(耐擦傷性)にも優れているため、成型したパターンに傷がついたり倒れたりしても、数秒で元通りになります。これにより高い歩留まりを可能にし、信頼性も向上します。さらに近年は、LED光源にも対応するなど、省エネルギーにもより貢献しています。

 

豊富な技術と知見で、光インプリントの進化をけん引する

こうした製品特性もさることながら、三洋化成はお客様のニーズに合わせてカスタマイズをすることで、他社製品との差別化を図っています。電子材料ではどうしても細かい調整が必要になるうえ、製品の進化によって求められる性能も変わってきます。

現在は、さらなる環境負荷低減に向け、樹脂の使用量も減らすことができる、インクジェットに適したUV硬化樹脂『ネオジェット』も開発しています。

無溶剤で、使用する樹脂のロスが少なく、省エネルギープロセスで加工できる環境面に優れた光インプリントは、SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標12「つくる責任 つかう責任」などに貢献しており、今後ますます需要が拡大すると考えられます。三洋化成では、新たなニーズに対応できるようさらなる高性能化を図りつつ、光インプリントの新しい用途開拓も視野に、今後も開発を進めていきます。

 

 

 

当社製品および開発品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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優れた使用感と乳化安定性を両立したピッカリング乳化剤 /magazine/archives/7516?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e5%2584%25aa%25e3%2582%258c%25e3%2581%259f%25e4%25bd%25bf%25e7%2594%25a8%25e6%2584%259f%25e3%2581%25a8%25e4%25b9%25b3%25e5%258c%2596%25e5%25ae%2589%25e5%25ae%259a%25e6%2580%25a7%25e3%2582%2592%25e4%25b8%25a1%25e7%25ab%258b%25e3%2581%2597%25e3%2581%259f%25e3%2583%2594%25e3%2583%2583%25e3%2582%25ab%25e3%2583%25aa%25e3%2583%25b3 /magazine/archives/7516#respond Fri, 19 Jan 2024 01:52:11 +0000 /magazine/?p=7516 Beauty&Personal Care統括部 企画開発グループ ユニットリーダー 濵野 浩佑 [お問い合わせ先] Beauty&Personal Care統括部 CXグループ   PDFファイル  …

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Beauty&Personal Care統括部 企画開発グループ

ユニットリーダー 濵野 浩佑

[お問い合わせ先]
Beauty&Personal Care統括部 CXグループ

 

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油と水といった混ざり合わないもの同士の界面に働いて乳化状態を作り出す機能を持つ成分を乳化剤といい、乳液やクリーム、日焼け止めなどさまざまな化粧品に活用されている。乳化剤には一般的に水もしくは油に溶解する界面活性剤が主に用いられるが、界面活性剤は化粧品として皮膚に塗布した際のべたつきや基剤臭による使用感の悪化、汗などの水分による化粧崩れなどの課題があった。また、どの油種に対しても安定な乳化物(エマルション)を与えるわけではないため、油種に対して適切な界面活性剤を複数種組み合わせる必要があった。

本稿ではこれら界面活性剤の課題を解決する新たな乳化剤である『ソリエマー』(開発品)について紹介する。

 

ピッカリング乳化とは

前述の乳化についての課題を解決する方法として、界面活性剤を使用せず、水や油に不溶な固体粒子を乳化剤として用いるピッカリング乳化が知られている1)。ピッカリング乳化では、界面活性剤とは異なり、乳化剤である固体粒子の油水界面への吸着エネルギーが非常に高いという特徴がある。そのため、得られるエマルションは、固体粒子によって物理的に安定化されることから高い乳化安定性を示す(図1)。

 

しかしながら、化粧品に応用する場合には他の化粧品成分の影響を受け、乳化性や安定性が悪くなる場合がある。また、ピッカリング乳化に用いる固体粒子(ピッカリング乳化剤)は非常に細かいナノサイズであることが多いため、きしみといった固体粒子に由来する使用感の悪さや配合時のハンドリング性の悪さなどの課題もあった。

 

使用感と乳化安定性を両立したピッカリング乳化剤『ソリエマー

当社は得意とする界面制御技術を応用することでピッカリング乳化に関する課題を解決するピッカリング乳化剤『ソリエマー』を開発した。『ソリエマー』はサブミクロンサイズの両親媒性シリカで、一般的にこのような大きさの固体粒子では安定なエマルションを得ることは困難であるが、当社はシリカのサイズ、形状、表面構造、疎水化度を精緻に制御するとともに、化粧品処方における最適な乳化方法を見いだすことで、安定なエマルションを得ることに成功した。

また、『ソリエマー』を用いて得られるエマルションは粒子径が非常に大きいという特長を有している。エマルションの粒子径は大きいとみずみずしい使用感となる一方、エマルションの合一が生じやすく乳化安定性が低くなることが知られているが2)、『ソリエマー』はピッカリング乳化剤であるため、この相反項目を解決することができ、優れた使用感と乳化安定性を両立することに成功した。

 

『ソリエマー』を用いた水中油型(O/W)エマルションの調製法

『ソリエマー』は粒子表面に疎水性のトリメチルシリル基と親水性のシラノール基を有し、両親媒性を示す一方、水や油には均一に分散しにくく凝集する傾向がある。そのため、『ソリエマー』を単純に水や油に加えて撹拌、乳化すると多くが凝集してしまう。

この課題を解決するためには『ソリエマー』をあらかじめ均一に分散させた後に、効率的に油水界面へ配向させる方法が有効ではないかと考え、乳化調製方法の検討を行った。そこで我々は『ソリエマー』の水相への親和性が塩基性物質と低級アルコールで制御できることを見いだし、乳化効率の良い新たな乳化調製法を確立した3)

まず、水や油に『ソリエマー』を分散させてエマルションを調製する。各乳化処方を表1に示し、調製したエマルションの画像を図2に示す。

 

 

表1の処方aでは『ソリエマー』をミネラルオイルに加え、ホモミキサーにて8,000rpmで撹拌しながら水、ヒドロキシエチルセルロース(以下、HEC)1%水溶液を徐添、撹拌したものを脱泡、静置してO/Wエマルションを得た。

処方bでは成分を配合する順番を変え、『ソリエマー』を水に加え、ホモミキサーにて8,000rpmで撹拌しながらミネラルオイル、水、HEC 1%水溶液の順番で徐添、撹拌することでO/Wエマルションを得た。

それぞれのO/Wエマルションの顕微鏡観察画像に示されるように、製剤中には想定された通り『ソリエマー』の凝集物が見られた。『ソリエマー』はホモミキサーで8,000rpmという強力な撹拌下においても、水または油のいずれにも均一に分散せず、その状態で乳化をしたことが製剤中に『ソリエマー』の凝集物を発生させた原因であると考えられた。これは『ソリエマー』が油水界面に効率的に配向していないことを示しており、乳化効率の低下や化粧品の使用感への悪影響が懸念された。

一方、我々が考案した『ソリエマー』の乳化調製法を図3に示す。我々は水溶液中のシリカのゼータ電位や、アルコールによる水相の疎水化に着目し、塩基性物質と低級アルコールを用いることで効率的にピッカリングエマルションを形成させることを見いだした。処方cでは、化粧品分野で一般的に使われる塩基性物質と低級アルコールとして水酸化カリウム(水酸化K)とイソペンチルジオール、乳化を安定させる増粘剤としてHECを選定し、表2の処方に基づいた乳化を行った。まず、水酸化Kとイソペンチルジオールを加えた水相に『ソリエマー』を加え、ホモミキサーにて4,000rpmで撹拌しながらオイル、水、HEC 1%水溶液およびpH調整剤としてクエン酸10%水溶液の順番で徐添、撹拌したものを脱泡、静置してO/Wエマルションを得た。その結果を図4に示す。得られたエマルションは、『ソリエマー』の凝集物のない、球状のO/Wエマルションを形成していることを確認した。この結果は『ソリエマー』の水相への親和性を制御したことによって、効率的に油水界面に配向したことを示唆している。

 

 

 

また、処方aやbで調製したエマルションは脱泡工程で気泡が多く発生していたが、処方cで調製したエマルションは脱泡工程で発生する気泡の量が非常に少なかった。これは、処方cの『ソリエマー』の分散工程では『ソリエマー』は水相への親和性が高いため気液界面に配向することはなく、油を加えた後に水およびpH調整剤を加えることで水相への親和性を下げて乳化能を発現させることで油水界面に『ソリエマー』が配向したためと考えられる。以上のことから、我々の見いだした乳化調製法では、塩基性物質と低級アルコールによって『ソリエマー』の分散性を制御することにより効率的なピッカリング乳化を実現できたことを示している。

 

『ソリエマー』を用いた水中油型(O/W)エマルションの性能評価

『ソリエマー』を用いたO/Wエマルションについて、他の乳化剤と性能比較した結果を図5に示す。『ソリエマー』は乳化性が良好で、50℃、30日の加速試験後もエマルションが保持され、油の分離がないことが確認された。この結果は、油種によらず、無極性油から極性油、シリコーンオイルなどさまざまな油に対しても同じであった。

 

一般的に、エマルションの粒子径は乳化安定性に大きく影響することが知られており、エマルションの粒子径が大きい場合や粒度分布が広い場合はクリーミングによるエマルション同士の合一やオストヴァルト熟成によって油相が分離すると考えられる。そのため、今回調製した『ソリエマー』のO/Wエマルションのような系では一般的に安定性は低いと考えられるが、『ソリエマー』は油水界面に固体粒子が配向するピッカリングエマルションを形成することから、高い乳化安定性を有していると考えられる。

一方で、従来のピッカリング乳化剤では安定的なエマルションを得るためには連続相が高粘度である必要があり、また加速試験における乳化安定性も処方によっては不十分なこともあった。また、化粧品の乳化で汎用されているノニオン界面活性剤は、得られるエマルションの粒径が非常に微細なため、高い乳化安定性が確認できた一方、使用感については従来通りのものであると想定された。以上の結果から、『ソリエマー』を用いて得られる粒子径の大きいエマルションは、ノニオン界面活性剤では達成が困難な新しい使用感になると考えられた。

そこで今回調製したエマルションのうち、乳化性および乳化安定性が優れていた『ソリエマー』およびノニオン界面活性剤で調製したエマルションについて、試験同意が得られた研究者5名で官能評価を実施した(図6)。官能評価では塗布中および塗布後の使用感についてノニオン界面活性剤を用いたO/Wエマルションを基準(3点)として『ソリエマー』を用いたO/Wエマルションの評価を実施した。その結果、『ソリエマー』のO/Wエマルションはピッカリング乳化でありながらきしみはノニオン界面活性剤と同等であり、さらにべたつきのなさとみずみずしさで優れていることがわかった。これは『ソリエマー』そのものがさらさらとした感触を有していること、また界面活性剤を使用していないためにべたつきがない製剤が作れることから、粒径の大きなエマルションの特長であるみずみずしさを最大限に引き出したためであると考えられる。

 

今後の展開

『ソリエマー』は完全な界面活性剤フリーによるO/Wエマルションの調製が可能であり、界面活性剤特有のべたつきなどを抑えてみずみずしい使用感を表現できる。また製剤を塗布した後の汗などによる皮膚上での油の再乳化を防ぐことによる耐水性の付与も期待される。そのため、『ソリエマー』は化粧水や乳液だけでなく、通常は油中水型(W/O)で調製されるような耐水性が求められる日焼け止め製品やメイク製品などへの応用もできると考えられ、さまざまなO/Wエマルションの乳化剤として使用することができると期待される。

 

参考文献

  1.  W.Ramsden,Proc. R. Soc. London,72,156-164(1903)
  2.  T.Okamoto,et al.,J. Soc. Cosmet.Chem. Jpn.,39(4),290-297(2005)
  3.  濵野浩佑,中村泰司,月刊ファインケミカル,52(12),37-44(2023)

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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金属の腐食を防ぐ、ハロゲン(塩素)フリーの抗菌剤 /magazine/archives/7378?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e9%2587%2591%25e5%25b1%259e%25e3%2581%25ae%25e8%2585%2590%25e9%25a3%259f%25e3%2582%2592%25e9%2598%25b2%25e3%2581%2590%25e3%2580%2581%25e3%2583%258f%25e3%2583%25ad%25e3%2582%25b2%25e3%2583%25b3%25ef%25bc%2588%25e5%25a1%25a9%25e7%25b4%25a0%25ef%25bc%2589%25e3%2583%2595%25e3%2583%25aa%25e3%2583%25bc%25e3%2581%25ae%25e6%258a%2597 /magazine/archives/7378#respond Tue, 14 Nov 2023 07:23:15 +0000 /magazine/?p=7378 PDFファイル 界面活性剤の一つであるカチオン界面活性剤は、抗菌剤としても広く活用されています。 ただし種類によっては金属を腐食させる可能性があるため、使用には注意が必要です。 この金属腐食のリスクを低減しつつ、ハロゲン…

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界面活性剤の一つであるカチオン界面活性剤は、抗菌剤としても広く活用されています。
ただし種類によっては金属を腐食させる可能性があるため、使用には注意が必要です。
この金属腐食のリスクを低減しつつ、ハロゲン(塩素)フリーで焼却してもダイオキシンを発生しない界面活性剤型抗菌剤を紹介します。

 

抗菌剤としても利用できる界面活性剤

シャンプーや洗剤などでなじみのある界面活性剤は、物質の境界面で働いて、性質を変化させる物質の総称です。その特性を生かして、洗剤はもとより化粧品や塗料、食品など幅広い用途に活用されています。

界面活性剤は、水になじみやすい親水基と、油などになじみやすい疎水基から構成されており、水に溶けた際の電荷によって、アニオン、カチオン、両性、ノニオンの4種類に分類されます。

なかでも親水基がプラスに帯電するカチオン界面活性剤は、マイナスに帯電した物質の表面に付着して滑りを良くしたり帯電を防止したりする作用があり、柔軟剤やヘアリンスなどに使われています。また、菌やカビなどの細胞もマイナスに帯電しているため、カチオン界面活性剤が付着しやすく、抗菌剤としても利用することができます。

 

即効性のある抗菌作用を持つ、カチオン界面活性剤型抗菌剤

抗菌剤は一般的に、有機系と無機系に分けられます。カチオン界面活性剤型の抗菌剤は有機系抗菌剤に分類されます。

有機系抗菌剤の一番のメリットは即効性が高いところです。一方で、刺激性が高く、物質の表面にとどまりづらく持続性が低いというデメリットがあります。この刺激性が高いという特性から、有機系抗菌剤は人に触れるものに積極的に使用されることは少なく、その多くが工業用途で使用されています。

カチオン界面活性剤型抗菌剤の抗菌作用には、いまだ解明されていないところも多々ありますが、マイナスに帯電しやすい菌やカビの細胞膜に吸着して表面を破壊したり、細胞内部に入り込んで生育に必要な機能を阻害したりすることで、抗菌作用を発揮すると考えられています。

ただ、多くのカチオン界面活性剤型抗菌剤は金属腐食性が高く、繊維用抗菌剤として使用した場合の繊維編機の針、木材用防腐剤として使用した際の木材に打ち込まれた釘など、金属に接触する可能性のあるものには使いづらいという難点がありました。

 

課題となっていた金属腐食性を低減した『オスモリン DA -50』

カチオン界面活性剤の優れた抗菌作用はそのままに、金属腐食性を低減したのが三洋化成の『オスモリン DA -50』です。開発のきっかけは、清潔・快適志向の高まりを背景に、抗菌繊維の需要が高まったこと。それまでの繊維用抗菌剤には、繊維に抗菌剤を混ぜ込んで抗菌処理を施した際、カビなどの真菌に対して十分な抗菌効果がない、金属腐食性があるといった問題がありました。そのため、真菌を含むさまざまな菌に優れた抗菌効果を示し、かつ、編機の針などを錆びさせない抗菌剤が求められていました。三洋化成では、1990年代半ばに開発をスタートさせ、1998年から販売しています。

『オスモリン DA -50』は、カチオン界面活性剤型抗菌剤のなかでも、第4級アンモニウム塩系に分類される抗菌剤です。第4級アンモニウム塩系の抗菌剤では、塩化物イオンを含む塩化ベンザルコニウムや塩化ジデシルジメチルアンモニウムなどがメジャーな成分になりますが、一般的に塩化物イオンなどのハロゲン系イオンが存在すると、金属を腐食させる傾向があります。ちなみに、塩化ジデシルジメチルアンモニウムは、その1%水溶液に一般的な鋼材を浸した場合、約1時間で錆びを確認できるぐらいの腐食性があります。

この塩化物イオンを、酸化力の弱いアジペート(アジピン酸塩)に置き換えたものが『オスモリン DA -50』です。酸化力を低減させることで、抗菌性を保ったまま金属腐食性を低減させ、そのうえ防錆性も高めています。

抗菌作用としては、大腸菌や黄色ブドウ球菌、緑膿菌や青カビ・黒カビなどの真菌など、多くの菌に効果があり、幅広い用途での活用が可能です。さらにハロゲン(塩素)を使用していないため、焼却してもダイオキシンが発生しないというメリットもあります。

 

幅広い分野で活躍が期待される抗菌剤

 

現在は、編機の針などの腐食を防ぐ繊維用の抗菌剤をはじめ、釘やネジなどを錆びさせないための建築用木材の防腐剤に活用されているほか、食品工場、飲食店やホテルの厨房、病院など、抗菌性が求められる場所での除菌洗浄剤や、工場などの金属洗浄浴の防腐剤としても利用が進んでいます。また、ミネラル分の多い硬水中で抗菌性を発揮できるのも大きなメリットです。例えばクーリングタワーの冷却水などは、無機塩類が析出した水あか(スケール)のできやすい環境下で抗菌性が求められ、こうした場面での活躍も期待できます。

金属腐食性の低減により活用の範囲が広がっている『オスモリン DA -50』は、抗菌剤の機能としてはSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に、ハロゲンフリーの機能としては目標12「つくる責任 つかう責任」に貢献する製品です。今後は、即効性があり、幅広い菌・カビに対して抗菌・防カビ効果を発揮し、ハロゲンフリーで金属腐食性が低いといった『オスモリン DA -50』の優れた特長をさらにPRし、より多くのお客様にお使いいただけるよう販売活動を進めていく予定です。

また、一般的に有機系抗菌剤は、無機系抗菌剤と比べて耐熱性や持続性に劣るため、研究開発では、カチオン界面活性剤型抗菌剤に共通するこれらの弱点を克服すべく、高温にさらされた後でも抗菌性を損なわないもの、対象物にとどまり、より長く抗菌性を発揮するものなど、さらに性能を高める製品の構想も進めています。

三洋化成ではこれからも、コロナ禍で抗菌意識の高まった世界へ向け、有機系抗菌剤の長所である即効性を生かしつつ、さらに高度な製品を開発し、提供していきます。

 

 

当社製品および開発品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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木粉配合高機能テキスタイルウッドレザー『MOC-TEX®』(モックテックス®)の開発 /magazine/archives/7392?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e6%259c%25a8%25e7%25b2%2589%25e9%2585%258d%25e5%2590%2588%25e9%25ab%2598%25e6%25a9%259f%25e8%2583%25bd%25e3%2583%2586%25e3%2582%25ad%25e3%2582%25b9%25e3%2582%25bf%25e3%2582%25a4%25e3%2583%25ab%25e3%2582%25a6%25e3%2583%2583%25e3%2583%2589%25e3%2583%25ac%25e3%2582%25b6%25e3%2583%25bc%25e3%2580%258emoc-tex /magazine/archives/7392#respond Tue, 14 Nov 2023 07:22:43 +0000 /magazine/?p=7392 サンノプコ㈱ 基盤製品研究部 主任 渡辺 将浩 [お問い合わせ先] サンノプコ㈱ スペシャリティ産業部   PDFファイル   近年、再生可能な資源である木材は持続可能で環境負荷の低い材料として注目を…

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サンノプコ㈱ 基盤製品研究部

主任 渡辺 将浩

[お問い合わせ先]
サンノプコ㈱ スペシャリティ産業部

 

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近年、再生可能な資源である木材は持続可能で環境負荷の低い材料として注目を集めている。一方、日本は森林が国土の7割を占めるにもかかわらず、その手入れが十分に行われず、森林の機能が生かされていない1)。国産木材を活用することは、森林資源の価値を向上し、適正管理、再生産の循環につなげていくために重要である。

木材の活用例として、木粉とプラスチックを複合化したウッドプラスチックコンポジット(WPC)がある。木材の風合いを残しながらプラスチックの性質も併せ持ち、デッキ材などのエクステリア用途で多く使用されている2)。木粉は間伐材や建築資材の製材過程で生じる木くずなどの廃材を細かく粉砕したものであり3)、木粉の利用は廃木材のアップサイクルといえる。

これまでWPCは硬質なものが一般的で、柔軟な風合いを有する素材はあまり見られなかった。サンノプコ㈱は、木粉の新しい用途として、皮革(本革、合成皮革)分野で近年注目を集めている「植物由来ヴィーガンレザー」への適用を試みた4)

本稿では植物由来ヴィーガンレザーとして当社が開発したウッドレザー『MOC-TEX®』(モックテックス®)(図1)を紹介する。本開発品は木粉とバイオポリウレタン樹脂から成り、本革の見た目・質感を再現した高機能テキスタイルである。

 

植物由来ヴィーガンレザーについて

合成皮革は近年、本革と比較して動物由来でないことからヴィーガンレザーと呼ばれ、販売を拡大している。ヴィーガンレザーは現在、石油由来のものが中心であるが、サステナビリティの観点から再生可能な植物原料を使用するヴィーガンレザーが注目を集めている。

植物由来ヴィーガンレザーは、本革のようになめしを行わないため、本革より廃水や二酸化炭素発生量が少なく、製造時の環境負荷が低い。合成皮革に対しては、植物を原料に使用しているため、石油資源の使用量削減や資源循環につなげることができ、カーボンニュートラルの観点で優れている。

これまで、パイナップルの葉やリンゴの廃繊維、ブドウの搾りかす、マッシュルームの菌糸体など、さまざまな植物を原料とした植物由来ヴィーガンレザーが開発されている。『MOCTEX®』は国産木材の木くずをアップサイクルし、木質感がありながら、本革の見た目・質感を再現させたもので、これまでの植物由来ヴィーガンレザーにはない新しい素材である。

 

『MOC-TEX®』の概要

『MOC-TEX®』は一般的な合成皮革と同様、図2に示す3層(表皮層、接着層、基布)で構成された積層体である。それぞれの層について以下で説明する。

 

『MOC-TEX®』の表皮層には、本革に類似した弾性や柔軟性が得られるポリウレタン樹脂を用いた。環境負荷低減の観点から、植物性バイオマスを含有した水性バイオポリウレタン樹脂を開発し、これに木粉を40~60%複合することで木質感を出した。水性バイオポリウレタン樹脂のバイオマス含有分と合わせると表皮層の植物性バイオマス比率は60~80%であり、石油資源の使用量低減や資源循環の促進に貢献できる。さらに、一般的な合成皮革の表皮層用塗工液は溶剤系のため、塗工・乾燥時の臭気など、環境面で課題があるが、『MOC-TEX®』の表皮層用塗工液は水を媒体としているため、製造時に有機溶剤臭はなく、木質の良い香りがする。

接着層や基布は、一般的な合成皮革と同様の素材が使用でき、基布としては天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維から成る織布、不織布、編布、起毛布、樹脂加工布などが使用できる。『MOC-TEX®』では基布も植物由来にこだわり、綿やレーヨンを優先的に選定している。必要により、一般的な合成皮革と同様に、表皮層の上にプリント層を設けたり、表面の耐久性を向上させる目的で表面処理層を設けたりすることもできる。

 

『MOC-TEX®』の特長

『MOC-TEX®』は木材由来の以下の特長を有する。

(1)木質感

表皮層は木材を多く含むため木材のナチュラルな色や質感を有し、一部木質繊維が表面に出ることでヌバックのような風合いを有する。木材が樹種によって色が変わるのと同様に、採用する木粉の樹種により表皮の色が異なる。また木粉以外に木材を脱色した木材パルプの粉末を使用した場合は白色にすることも可能である(図1)。保存状態が良好であれば木材おのおのの特有の香りも保持できる。

(2)吸放湿性

吸放湿性とは素材が空気中の湿気を吸収したり放出したりする機能である。一般的に本革は吸放湿性が高く蒸れにくいのに対し、合成皮革は吸放湿性が低く蒸れやすい。蒸れやすいと靴では不衛生になりやすく、スマートフォンケースやバッグなど手で長時間触れるものでは汗によるベタつきが生じるという欠点がある。『MOC-TEX®』は牛革と比べ吸湿しにくいが吸湿率に対する放湿率は75%で牛革の63%より高いため蒸れにくい(図3)。

 

(3)消臭性

消臭性とは、素材近傍の空気中における悪臭成分濃度を低減させる機能である。悪臭成分とは、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸などの汗臭や加齢臭の原因となる化合物などを指す。代表例として、アンモニアの消臭性試験を行った結果を図4に示す。『MOC-TEX®』は牛革と同様に空気中のアンモニア濃度を100ppmから検知管の検出限界(0.5ppm)以下に低下させる消臭性を有していることを確認した。

 

前述した特長を表1にまとめた。木質感、吸放湿性、消臭性というこれらの特長を生かして、家具、鞄、雑貨、アパレル、靴などへの用途展開を考えている(図5)。特に国産木材の使用にこだわった椅子、ソファへの適用は国産木材利用促進につながる。

 

 

『MOC-TEX®』の製造技術

製造プロセスも一般的な合成皮革と同様に表皮層用塗工液の作成、離型紙への塗工・乾燥、接着層用塗工液の塗工・乾燥、基布の貼り付け、巻き取りというプロセスで製造できる(図6)。

 

表皮層用塗工液作成の工程では主に木粉と水性バイオポリウレタン樹脂、水、必要により各種添加剤(分散剤、消泡剤、湿潤剤、粘弾性調整剤)を配合する。『MOC-TEX®』は一般的な合成皮革と異なり、表皮層に木粉を多く含有するため、次の観点を考慮する必要がある。

①木粉の凝集

木粉は凝集しやすい材料であり、凝集を防ぐため分散剤が使用される(図7)。凝集が生じると図7(右)のような状態となり、ハンドリングが困難となる。

 

②木粉から生じる泡

木材は細胞が寄り集まった多孔質材料であり、木粉も同様である。木粉を水に分散させると、木粉内の多孔構造中に含んでいる空気が徐々に泡として液中に出てくる。塗工時に泡が存在すると乾燥後の表皮層に円形の欠陥が生じる原因となる。そこで消泡剤が用いられるが、消泡剤の種類によってはハジキと呼ばれる塗膜欠陥の原因になることもあり、適切な消泡剤を選択する必要がある。

③塗工適性

『MOC-TEX®』の表皮層用塗工液は水性のため表面張力が高く、一般的な有機溶剤系の合成皮革表皮層用塗工液に比べてハジキなどの塗膜欠陥が生じやすく、湿潤剤や粘弾性調整剤などで塗工適性をコントロールする必要がある。

④表皮層の柔軟性

『MOC-TEX®』は本革のような柔軟性が必要である。表皮層に木粉を多く入れるほど、表皮層は硬く、折り曲げた際に割れやすくなる。その対策としてポリウレタン樹脂を柔らかくしすぎると耐摩耗性などの耐久性が低下するため、柔軟性と耐久性のバランスをとることが重要である。

 

サンノプコ㈱では、各種分散剤(『SNディスパーサント』シリーズなど5))、消泡剤(『SNデフォーマー』シリーズなど6))、湿潤剤(『SNウェット』シリーズなど)や粘弾性調整剤(『SNシックナー』シリーズなど7))を製造販売しており、これまで培った技術と経験により①~③の観点を踏まえた最適な添加剤を選定した。また、三洋化成グループは繊維、塗料、インキ、接着剤用などのポリウレタン樹脂を製造販売しており、用途に応じてポリウレタン樹脂の物性(機械物性、耐加水分解性、耐光性など)を制御する技術と経験を有している8)。④の柔軟性と耐久性を両立させるため、これらの知見を生かして最適な物性に設計した水性バイオポリウレタン樹脂を新たに開発した。

 

今後の展望

『MOC-TEX®』の技術は、2022年末のプレスリリース後、多くの反響をいただいており、現在、早期の実用化に向けた課題抽出や製造プロセス検討などを行っている。

今後も国産木材利用促進、カーボンニュートラル実現に向けて開発を進め、多くの製品に採用いただくことで、木材の魅力を伝えていきたい。

 

参考文献

  1. 中島孝雄、大島克仁、「木材の魅力・体力・底力」木の力、別冊付録第8章、日本木材加工技術協会関西支部
  2. 藤澤泰士、鈴木聡、長谷川益夫、高橋理平、富山県農林水産総合技術センター木材研究所研究報告、3、25-31(2011)
  3. 伊藤弘和、木質バイオマスのマテリアル利用・市場動向、株式会社シーエムシー出版、14-23(2015)
  4. 渡辺将浩、紙パルプ技術タイムス8月号、株式会社テックタイムス、(2023)
  5. 澤熊耕平、パフォーマンス・ケミカルス、三洋化成ニュース、No.507(2018)
  6. 松村陽平、パフォーマンス・ケミカルス、三洋化成ニュース、No.537(2023)
  7. サンヨー・プロダクト・トピックス、三洋化成ニュース、No.501、9-11(2017)
  8. サンヨー・プロダクト・トピックス、三洋化成ニュース、No.517、9-11(2019)

 

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