パフォーマンス・ケミカルス – SANYO CHEMICAL MAGAZINE /magazine Fri, 11 Oct 2024 05:24:18 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.4.5 /magazine/wp/wp-content/uploads/2020/09/cropped-sanyo_fav-32x32.png パフォーマンス・ケミカルス – SANYO CHEMICAL MAGAZINE /magazine 32 32 金型離型性と基材密着性を両立したナノインプリント用UV硬化樹脂 /magazine/archives/8442?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e9%2587%2591%25e5%259e%258b%25e9%259b%25a2%25e5%259e%258b%25e6%2580%25a7%25e3%2581%25a8%25e5%259f%25ba%25e6%259d%2590%25e5%25af%2586%25e7%259d%2580%25e6%2580%25a7%25e3%2582%2592%25e4%25b8%25a1%25e7%25ab%258b%25e3%2581%2597%25e3%2581%259f%25e3%2583%258a%25e3%2583%258e%25e3%2582%25a4%25e3%2583%25b3%25e3%2583%2597%25e3%2583%25aa /magazine/archives/8442#respond Fri, 11 Oct 2024 05:07:13 +0000 /magazine/?p=8442 高機能マテリアル事業本部 電材研グループ ユニットチーフ 宮本 佳介 [お問い合わせ先]同営業グループ   PDFファイル インプリント技術は、基板上に塗布された樹脂膜に金型(モールド)を押し当てて、これを離型…

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高機能マテリアル事業本部
電材研グループ ユニットチーフ 宮本 佳介
[お問い合わせ先]同営業グループ

 

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インプリント技術は、基板上に塗布された樹脂膜に金型(モールド)を押し当てて、これを離型してモールドに刻まれた微細パターンを樹脂膜に転写する技術である。この技術は、非常に細かい構造を高精度かつ効率的に作製することが可能で、半導体デバイス、光学デバイス、バイオメディカルなど多岐にわたる分野での応用が期待されている。近年では、デバイスの小型化などさらなる高性能化、高機能化を目的として、従来のマイクロオーダーより微細なナノオーダーでのインプリント技術であるナノインプリント技術が広がりを見せている。

本稿では、当社のナノインプリント用UV 硬化樹脂『サンラッド』シリーズについて紹介する。

UV硬化樹脂について

UV 硬化樹脂とは、紫外線(UV)を照射することで硬化する樹脂である。UV 硬化樹脂は、アクリルモノマーに代表されるさまざまな反応性モノマーやオリゴマーを組み合わせることで、要求される機械特性、電気特性、耐薬品性、耐熱性などのさまざまな特性に応じた機能が発現可能となる。そのため、ディスプレイや半導体などの電子材料だけではなく、インクや各種コーティング用途など幅広い分野、産業でUV 硬化樹脂が使用されている。また、揮発性有機化合物(VOC)成分となる有機溶剤を使用しない樹脂設計も可能であることから、近年では環境配慮の観点でもUV 硬化樹脂システムが注目を浴びている。

ナノインプリントについて

ナノインプリントの方式は、大きく「熱ナノインプリント方式」と「光(UV)ナノインプリント方式」とに分けられる1)

熱ナノインプリント方式では、樹脂膜として熱可塑性もしくは熱硬化性樹脂が使用される。熱ナノインプリントでは図1 に示す通り、「高温での加熱→冷却」の熱サイクルを伴うため、一般に生産効率が悪くなる。

図1 熱ナノインプリントとUVナノインプリントの比較

 

一方で、UV ナノインプリントはUV 硬化樹脂が使用され、短時間のUV 照射で樹脂を硬化させることが可能であり、生産効率が高いことが特徴である。またUV ナノインプリントでは、熱インプリントで必要な高温の温調設備が不要となるため、設備も比較的小型なもので設計できることから、省エネ、省スペース化の観点でも有利とされている。

ナノインプリントはその高い解像度、高い生産性、そして微細な構造の形成といった特長により、製品の性能向上や製造コストの削減につながることから、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイといった光学デバイスや、加速度計、圧力センサーなどのMEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)などの用途ですでに応用されている。

近年、急速に進展している自動運転、仮想現実(VR)/拡張現実(AR)、ロボット、生体認証などには、周囲の情報を多角的に把握するため、センサーやカメラが欠かせない。今後もさらなる高精度化のための搭載数の増加や用途拡大により、センサーやカメラの需要は拡大すると予測されている2)。ナノインプリント技術は、このようなセンサーやカメラを高精度・低コストに製造する方法として活躍が期待されている3)

金型からの離型性の高いナノインプリント用樹脂『サンラッド』

図2 『サンラッド』の連続成型プロセス例

図2に凹凸金型を用いたUV硬化樹脂の連続成型プロセス例を示す。そのプロセスは(1)UV 硬化樹脂の基材への塗工、(2)金型プレス、(3)UV 照射による硬化、(4)離形し基材上に金型から転写(インプリント)されたパターンを形成、の4工程からなる。ロール状のモールドを用いてこの工程を大量に連続して行うロール toロール方式は、効率のよい生産方法として広く適用されている。

ナノインプリントにより形状付与されたPET フィルムが所望の性能を発揮するためには、正確に金型の形状が転写される必要がある。そのためには、充填時に金型の隅々まで樹脂が隙間なく充填されるとともに、UV 硬化後の樹脂が割れたり変形したりすることなくきれいに金型から離型される必要がある。しかし、金型の形状が微細になればなるほど、このような割れや変形などの不具合による形状不良が発生しやすくなる。

また、パターンの転写精度や安定性の向上のためには、硬化後の樹脂が基材から剝がれないことも重要である。一般にUV 硬化樹脂では、金型からの離型性を向上させるために離型剤が添加される。しかしながら、通常の離型剤は基材とフィルムの密着性も低下させてしまう。そのため使用量が制限されることが多く、離型性と密着性を両立することは困難であった。

これに対し、当社が開発した特殊な離型剤は、構造を最適化することで金型と接する面に選択的に集まりやすいよう設計されている(図3。これにより、基材フィルム側に離型剤成分が残存しにくいため、基材との密着性を損なうことなく高い金型離型性が発現できる(表1)。当社『サンラッド』シリーズは、この離型剤の技術を活用することで基材密着性と高い転写性能の両立を可能にしている(図4)。

図3 金型に選択的に集まる性質を持つ当社の特殊離型剤

図4 サンラッドシリーズで作製したさまざまな微細形状

表1 金型離型性と基板密着性

 

ナノインプリントでの用途拡大に向けた新規開発

表2 『サンラッド』の代表例

これまで当社では、インプリント用UV 硬化樹脂としてさまざまな製品を上市してきた。代表的な例としては、耐擦傷性に優れた高復元性タイプの『サンラッド TF-01』や、微細成型用としての『サンラッド FM-01』などがある。しかしながら、これまでのラインナップでは比較的粘度が高いものが多く、金型の形状によっては液の入り込み性が悪くなり、転写不良を起こすケースがあった。また、ガラス転移点(Tg) は50 ℃ 程度と高くはなく、弾性率も比較的低いため、耐熱性や樹脂強度が要求される用途では適用が難しかった。

これらの課題を解決するため、今回新たに『サンラッドFM-03』を開発した。本品は無溶剤でありながら低粘度であるため、従来プロセスでも金型への液の入り込み性が向上できるものと考えており、より微細で複雑な形状への適用拡大が期待される。また、ガラス転移点、弾性率が高いため耐熱性や樹脂強度が要求される用途への適用も期待される(表2)。

ただし、UV 硬化樹脂に要求される特性はユーザーの用途や使用方法により異なるため、多様化するニーズに合わせて細かなカスタマイズが必要になってくる。これまでの開発で得られた膨大な知見により、そのようなユーザーニーズに迅速に対応し、最適な樹脂組成を提案できるのも当社の強みである。

終わりに

今後もARやVR技術の進化、ウェアラブルデバイスに代表される各種デバイスの発展などに伴い、UV 硬化樹脂にはさらなる高性能化、高機能化が求められている。また、省エネの観点で、光源は従来の高圧水銀灯やメタルハライドランプなどからLED 光源へのシフトが進んでいくものと考えられる。このようなさまざまな顧客要望に応えるべく、これからも開発に注力してさらなるラインナップの拡充に努めていきたい。

参考文献
1)精密工学会誌/ Journal of the Japan Society for Precision Engineering Vol.86, No.4, 2020
2)株式会社富士キメラ総研「2023 センサーデバイス関連市場総調査」
3)「ナノインプリント技術の基礎解説、自動運転やAR に影響与える微細加工技術」ビジネス+ IT
https://www.sbbit.jp/article/cont1/40685,(参照:2024-7-8)

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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人工タンパク質『シルクエラスチン®』を用いた再生医療機器の開発 /magazine/archives/8148?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e4%25ba%25ba%25e5%25b7%25a5%25e3%2582%25bf%25e3%2583%25b3%25e3%2583%2591%25e3%2582%25af%25e8%25b3%25aa%25e3%2580%258e%25e3%2582%25b7%25e3%2583%25ab%25e3%2582%25af%25e3%2582%25a8%25e3%2583%25a9%25e3%2582%25b9%25e3%2583%2581%25e3%2583%25b3%25e3%2580%258f%25e3%2582%2592%25e7%2594%25a8%25e3%2581%2584%25e3%2581%259f /magazine/archives/8148#respond Thu, 11 Jul 2024 06:16:54 +0000 /magazine/?p=8148 Siela Project プロジェクトリーダー 川端 慎吾 [お問い合わせ先] Siela Project マーケティンググループ   PDFファイル 細胞足場材『シルクエラスチン®』とは 細胞足場材は、生体…

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Siela Project プロジェクトリーダー 川端 慎吾

[お問い合わせ先]
Siela Project マーケティンググループ

 

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細胞足場材『シルクエラスチン®』とは

細胞足場材は、生体内の細胞の増殖や分化を促進させる環境をつくり出すものである。そのため、損傷した組織の一部を修復したり、置き換えたりする再生医療において、組織再生を誘導・促進する極めて重要な役割を担っている。

シルクエラスチンは、天然由来のタンパク質であるエラスチンとシルクフィブロインを模倣し、遺伝子組み換えによって作製された人工タンパク質である(図1、2)。分子内にエラスチン由来配列を多く含むため、細胞親和性(炎症を起こさずに細胞になじむ特性)が高く、かつ弾性(生体組織にハリを与える特性)に富むことから、細胞足場材に適していると考える。シルクエラスチンは水に溶けると、低温では液体であるが、加温することにより水溶液の粘度上昇が進み、最終的にゲル化する(図3)。一度ゲル化すると液体に戻ることはなく、このゲル化物は、皮膚を含む軟組織に近い弾性を有する。さらに、当社は独自の界面制御技術により、シルクエラスチンをさまざまな密度や厚みのスポンジ形状(シルクエラスチンスポンジ)やフィルム形状(シルクエラスチンフィルム)に加工することを可能にした(図4)。これにより、細胞足場材としての生物学的、力学的環境を最適化することができる。本稿では、これらの性質を生かして開発中の医療機器について紹介する。

 

 

創傷治癒材の開発

従来の創傷治療に用いる医療機器は、図5で示す通り、創傷の深さと菌感染のリスクに応じて使い分けられている。比較的浅い創傷では、「湿潤環境の維持」を目的に創傷被覆材や軟こうが使われる。そのなかで菌感染リスクが低い創傷では、カルボキシメチルセルロース(CMC)などが用いられ、菌感染リスクが高い創傷では、静菌作用を有する銀イオン配合のハイドロコロイドなどが用いられる。創傷治癒材としてのシルクエラスチンの特長は、スポンジ形状のシルクエラスチンを創面の形に合わせて投与すると、体液(滲出液)を吸収・溶解した後、患部に広がり体温でゲル化するため、創傷被覆材や軟こうに比べて複雑な創傷部においても高い密着性と追随性を発揮できる点である。創傷面上でゲル化したシルクエラスチンゲルは「湿潤環境の維持」に加え、創傷面の安静を保つ「創傷の保護」機能を有する。また、細胞親和性が高いため、炎症期や増殖・成熟期に必要な細胞の遊走・増殖を促進する(「創傷治癒促進」)。さらに、シルクエラスチンは菌感染拡大に対する抵抗性が高いため、菌感染リスクが高い創傷においても有効な創傷治癒材となり得る。臨床現場で求められている菌感染に強くかつ創傷治癒促進効果が高い創傷治癒材に対して、本品は非常にニーズを捉えているといえる。

これまでに、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の平成28年度産学連携医療イノベーション創出プログラム(ACT-M)の支援のもと、医師主導治験(京都大学)にて安全性を確認、平成31年(令和元年)度 医工連携事業化推進事業の支援のもと、企業治験にて有効性を確認し、いずれも良好な結果が得られている。今後は上市に向けて薬事承認などの販売準備を進めていく。

 

半月板再生材の開発

近年の高齢化社会では平均寿命ではなく、心身ともに健康的に生活できる「健康寿命」を延ばすことが重要とされている。健康寿命を短くする(要介護になる)因子としては運動器の障害が2割を占め、そのなかでも「関節疾患」が大きな割合を占めている(10.9%)。高齢者の「関節疾患」において最も多いのは、変形性関節症(Osteoarthritis:OA)である。OAを有する人数は約3000万人とされ、そのなかの約1000万人が痛みなどの症状を有するとされている)1。変形性膝関節症(膝OA)は、患者の生活の質(QOL)や健康寿命が大きく低下することから、できるだけ元の状態に修復することで膝OAを予防することが求められている。

膝関節には、骨の周辺にある靭帯、腱、筋肉以外に、関節が摩擦なく動くように骨の表面を覆い、弾力のある「関節軟骨」や、膝関節の衝撃を吸収するクッションの役割を担う「半月板」などがある。半月板はその名の通り半月の形をしており、膝の内側、外側それぞれにある(図6)。関節軟骨や半月板は、摩擦や衝撃を低減して関節を滑らかに動かすために重要な組織であるが、加齢やスポーツなど、繰り返しの負荷が原因で損傷・変形してしまう。これらの組織が損傷・変形してしまうと、歩行時の痛みやひっかかりを感じる、曲げ伸ばしが全くできない状態になる、炎症を起こし水や血液がたまるなどさまざまな症状を引き起こす。人間の身体には本来、組織修復能力が備わっているが、血液やリンパ液に乏しく、常に高い負荷のかかる関節軟骨や半月板は、一度損傷すると非常に修復が困難な組織として認識されている。関節軟骨については、近年患者自身の細胞(自家細胞)を用いて組織を再生する医療製品が開発されているが、半月板の修復・再生についてはまだ再生技術は確立されていない。

これまで、半月板の損傷・変形に対しては、「関節鏡視下半月板部分切除術」により半月板を切除する対症療法が主流であった。しかし、半月板の切除は一部であっても膝の機能に大きな影響を及ぼし、後に膝OAを生じて曲げ伸ばしや歩行が困難になる原因になってしまうことがわかってきており、できる限り半月板縫合術による修復が試みられている。実際、近年では半月板を温存する関節鏡視下半月板縫合術が増加している(図7)。しかし、損傷の程度や範囲によって縫合術が不可能な場合も多い。また、縫合術が行えた場合でも、もともと治癒能力が低く変形も加わった半月板の治療には限界があり、完全に治癒することは困難であった。

シルクエラスチンは、前述の創傷治癒材の開発のなかで、得られた細胞に対する作用機序から、半月板再生にも寄与できるものと考えられた。そこで半月板縫合術時にシルクエラスチンを患部に投与することで、半月板同士の再生・癒合を促進させる医療機器の開発を進めてきた。平成30年度産学連携医療イノベーション創出プログラム・セットアップスキーム(ACT-MS)の支援のもと、ウサギやブタを用いた動物実験にて、シルクエラスチンの半月板に対する組織再生効果を確認した。また、令和2年度ACT-Mの支援のもと、従来法では縫合しても良い結果が得られにくいような難しい症例の17歳から52歳の男女8人を対象に、医師主導治験(広島大学)にて安全性を確認した。

その結果、特段の有害事象が認められず、安全に使用できることがわかった。また、全ての患者で半月板の癒合を確認し、うち6例では術後3カ月で完全癒合していた。今後、令和6年度医工連携イノベーション推進事業の支援のもと、企業治験にて有効性の確認を進めていく予定である。

 

今後の展開

創傷治癒材や半月板再生材の開発において、シルクエラスチンは組織修復を促進させる効果を有することが見いだされた。その特性を生かし、「治りにくい傷を治す」をコンセプトに難治性の気管支塞栓材や筋肉再生材の開発にも着手している。気管支塞栓材は肺がんなどで肺切除した際にできる気管支断端からの空気漏れを防ぐために使用される。プラグ状に加工したシルクエラスチンを気管支に詰めることで、空気漏れを防ぎながら気管支断端の組織再生を促進させる。このように、最終的には自らの組織で気管支断端を閉鎖させるような気管支塞栓材は従来治療にはなく画期的な医療機器となりうる。

一方、筋肉再生材は、スポーツや日常生活のなかで、筋肉の断裂などにより筋肉損傷が生じた際に用いる。従来治療では、有効な手段がないのが現状である。シルクエラスチンを筋肉損傷部に投与することで、筋肉再生に必要な細胞を引き寄せ、筋肉再生を促進する効果が動物実験にて確認できている。

シルクエラスチンはこれまで治療が難しかった傷を治す画期的な医療機器として、高いポテンシャルを有する素材である。当社は、シルクエラスチンを国内初の遺伝子組み換え技術を用いた医療機器として、創傷治癒材の上市後、さまざまな用途展開を図るとともに、海外展開も視野に入れて開発を進めていく。そして、高齢者をはじめとするさまざまな患者のQOLを向上できる素材として、育成していく。

 

参考文献:1)平成20年介護予防の推進に向けた運動器疾患対策に関する検討会(厚生労働省)

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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匂いセンサー『FlavoToneⓇ』の開発  /magazine/archives/7745?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e5%258c%2582%25e3%2581%2584%25e3%2582%25bb%25e3%2583%25b3%25e3%2582%25b5%25e3%2583%25bc%25e3%2580%258eflavotone%25e2%2593%25a1%25e3%2580%258f%25e3%2581%25ae%25e9%2596%258b%25e7%2599%25ba%25e3%2580%2580 /magazine/archives/7745#respond Thu, 11 Apr 2024 05:58:29 +0000 /magazine/?p=7745 デジタル嗅覚事業創造部 ソリューション開発グループ グループリーダー 石田 智信 [お問い合わせ先] 同 マーケティンググループ   PDFファイル 匂いセンサーとは (1)匂いとは何か? 私たちは日常のなかで…

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デジタル嗅覚事業創造部 ソリューション開発グループ
グループリーダー 石田 智信
[お問い合わせ先]
同 マーケティンググループ

 

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匂いセンサーとは

(1)匂いとは何か?

私たちは日常のなかで匂いを感じながら生活している。匂いの正体は、嗅細胞を刺激する作用を持つ種々の匂い物質であり、その数は約40万種類にも及ぶといわれる。多くの場合、匂いはこれらさまざまな匂い物質が複雑に混ざった混合物であり、私たちが「違う匂いだ」と感じる現象は、吸い込んだ気体に含まれる匂い物質の種類や濃度の違いによって引き起こされる(図1)。

 

(2)嗅覚の仕組み

鼻の奥には、匂い物質によって刺激される嗅細胞と呼ばれる細胞が存在する。嗅細胞の表面には、嗅覚受容体(人間の場合は約400 種類1))と呼ばれるタンパク質がある。この嗅覚受容体に匂い物質が結合することで嗅細胞が刺激され、これが電気信号として脳に伝わる。

それぞれの嗅覚受容体の立体構造は互いに違うため、この違いによって、匂い物質に対する結合度合(親和性)が受容体ごとに変わり、嗅細胞はそれぞれ異なる刺激を受ける。

脳は嗅細胞から送られた刺激を図2 に示すようなパターンとして処理することで、匂いの違いを捉えている。このように、嗅覚受容体・嗅細胞・脳が連携してはたらくことによって、私たちは匂いの有無や匂いの違いなどを認識している。

 

 

(3)匂いセンサーが提供する機能

私たちの嗅覚は大変高度に発達していて、例えば、おいしそう、心地良いといった情緒的価値を感じたり、食べ物の腐敗や有毒ガスなどの危険から身を守ったりすることができる。

当社が開発を進めている匂いセンサー※『FlavoTone』は、私たちの嗅覚と同様、匂いの違いをセンシングするデバイスである。嗅覚の機能をデバイス化することで、匂いをデジタルデータとして記録したり、匂いの感じ方の個人差を取り除いたり、匂いを24 時間365 日モニタリングしたりすることが可能となり、私たち人間には困難であった新たな価値を提供できる。

※「匂いセンサー」と題された技術・製品の提供機能に関する定義には揺れがあるため、混同しないよう注意する必要がある。本稿における「匂いセンサー」という用語は、匂いの違いをセンシングする技術、製品を指す。

 

匂いセンサーの測定の仕組み

(1)匂いの検出原理

『FlavoTone』では嗅覚受容体に相当する「匂い応答材料」に、当社独自設計に基づいた樹脂材料、添加剤、導電材料を用いている。この応答材料は、匂い物質の吸着によって電気抵抗が増加する特性を持つ。この特性を利用すると、嗅細胞に相当する「プローブ」で、匂いの強さ(≒匂い物質の濃度)に相当する情報を検出することができる(図3)。

 

 

匂い応答材料に吸着した匂い物質は、周囲が無臭状態に戻ると材料から脱離していくため、素子の電気抵抗は元に戻る。このことによって『FlavoTone』はさまざまなサンプルを短時間で連続して測定したり、匂いが変化する環境で長時間連続して測定したりすることができる(図4)。

 

 

(2)匂い識別の仕組み

前述のように『FlavoTone』には、匂い物質を吸着する性質が異なる複数の「プローブ」が搭載されている。これは、私たちの嗅覚器官が多数の嗅覚受容体を備えていることに対応している。『FlavoTone』は各プローブの電気抵抗変化をそれぞれ測定しており、嗅細胞が脳に伝える電気信号と同様に、匂いをパターンとして記録できる。このようにして得られたセンサーのデータをAI 技術などによって、さまざまな数値処理を行うことで、嗅覚と同じように匂いの違いを捉える機能を提供する。嗅覚との対比を表1にまとめた。

 

『FlavoTone』の使い方

(1)液体や固体の匂いを測定する

飲料や薬品などの液体や、食品や工業製品のシート状・粉末状・塊状・フィルム状などさまざまな形状を持つサンプルの匂いを測定する場合には「卓上機」(図5)を用いて図中①~④に示す手順で簡便に測定することができる。

 

〈測定事例1:コーヒー豆の測定〉

市販の焙煎したコーヒー豆3種類(キリマンジャロ、マンデリン、グアテマラ)の測定を行った。解析の結果、3 種類のサンプルの違いを捉えることができた。図6-a では、サンプル別にプロットを色分けした。同色のプロットは繰り返しの測定点を示し、同色プロット群同士の距離が大きいほど、匂いの違いがはっきりしていることを意味する。また、同色プロット群同士が斜めの位置にあると、匂いの成分の違いが大きいことを意味する。

 

〈測定事例2:再生プラスチックの臭気比較〉

近年、脱炭素へのニーズから再生プラスチックの利用検討が進んでいるが、新品プラスチックとは異なる不快な臭気があることが知られている。新品ポリプロピレン(PP)と再生PP のペレットをブランク(無臭サンプル)とそれぞれ測定して比較すると、新品PP は無臭に近く、再生PP は新品PPとは異なる臭気があることが確認できた(図6-b)。

 

(2)空間に広がった匂いを測定する

前述のようなサンプルから発生する匂いの測定とは異なり、部屋の中など比較的広い空間で起こる匂いの変化を捉え、その状態を識別することを目的とした測定に対しては、「小型機(開発品)」(図7)による測定を提案している。

 

〈測定事例3:当社内トイレにおける臭気の測定〉

当社内男子トイレの小便器付近にセンサーを設置し、正常(無臭)/ 尿臭あり/ 大便臭あり/ 吐しゃ物臭ありの状態を識別させることを目標として、尿・大便・吐しゃ物を模擬したサンプルをセンサー周辺の床面に散布する実験を行った(図8)。その測定・解析フローを図9 に示した。測定および解析の結果、開発途上ではあるが無臭と尿臭ありの状態を識別できることを確認している。トイレの臭気を匂いセンサーでモニタリングすることで、適切なタイミングで汚れに合わせた効率の良い清掃を提案することができる。現在、センサーの小型・省電力化や、対応できる臭気の拡張などへ向けて開発を進めている。

 

今後の予定

当社は『FlavoTone』のレンタルや受託分析に加え、個別の課題に対するソリューション提案なども行っている。今後、多様化する消費者ニーズや、複雑化する社会課題に対し、顧客との共創を通じて、より良い社会インフラづくりに貢献していく。

 

参考文献

1)塩田清二 他,「においのセンシング、分析とその可視化、数値化」:第1 章 第1 節 解剖生理学的にみた香りによる嗅覚受容メカニズム,技術情報協会,p3-9(2021)

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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優れた使用感と乳化安定性を両立したピッカリング乳化剤 /magazine/archives/7516?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e5%2584%25aa%25e3%2582%258c%25e3%2581%259f%25e4%25bd%25bf%25e7%2594%25a8%25e6%2584%259f%25e3%2581%25a8%25e4%25b9%25b3%25e5%258c%2596%25e5%25ae%2589%25e5%25ae%259a%25e6%2580%25a7%25e3%2582%2592%25e4%25b8%25a1%25e7%25ab%258b%25e3%2581%2597%25e3%2581%259f%25e3%2583%2594%25e3%2583%2583%25e3%2582%25ab%25e3%2583%25aa%25e3%2583%25b3 /magazine/archives/7516#respond Fri, 19 Jan 2024 01:52:11 +0000 /magazine/?p=7516 Beauty&Personal Care統括部 企画開発グループ ユニットリーダー 濵野 浩佑 [お問い合わせ先] Beauty&Personal Care統括部 CXグループ   PDFファイル  …

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Beauty&Personal Care統括部 企画開発グループ

ユニットリーダー 濵野 浩佑

[お問い合わせ先]
Beauty&Personal Care統括部 CXグループ

 

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油と水といった混ざり合わないもの同士の界面に働いて乳化状態を作り出す機能を持つ成分を乳化剤といい、乳液やクリーム、日焼け止めなどさまざまな化粧品に活用されている。乳化剤には一般的に水もしくは油に溶解する界面活性剤が主に用いられるが、界面活性剤は化粧品として皮膚に塗布した際のべたつきや基剤臭による使用感の悪化、汗などの水分による化粧崩れなどの課題があった。また、どの油種に対しても安定な乳化物(エマルション)を与えるわけではないため、油種に対して適切な界面活性剤を複数種組み合わせる必要があった。

本稿ではこれら界面活性剤の課題を解決する新たな乳化剤である『ソリエマー』(開発品)について紹介する。

 

ピッカリング乳化とは

前述の乳化についての課題を解決する方法として、界面活性剤を使用せず、水や油に不溶な固体粒子を乳化剤として用いるピッカリング乳化が知られている1)。ピッカリング乳化では、界面活性剤とは異なり、乳化剤である固体粒子の油水界面への吸着エネルギーが非常に高いという特徴がある。そのため、得られるエマルションは、固体粒子によって物理的に安定化されることから高い乳化安定性を示す(図1)。

 

しかしながら、化粧品に応用する場合には他の化粧品成分の影響を受け、乳化性や安定性が悪くなる場合がある。また、ピッカリング乳化に用いる固体粒子(ピッカリング乳化剤)は非常に細かいナノサイズであることが多いため、きしみといった固体粒子に由来する使用感の悪さや配合時のハンドリング性の悪さなどの課題もあった。

 

使用感と乳化安定性を両立したピッカリング乳化剤『ソリエマー

当社は得意とする界面制御技術を応用することでピッカリング乳化に関する課題を解決するピッカリング乳化剤『ソリエマー』を開発した。『ソリエマー』はサブミクロンサイズの両親媒性シリカで、一般的にこのような大きさの固体粒子では安定なエマルションを得ることは困難であるが、当社はシリカのサイズ、形状、表面構造、疎水化度を精緻に制御するとともに、化粧品処方における最適な乳化方法を見いだすことで、安定なエマルションを得ることに成功した。

また、『ソリエマー』を用いて得られるエマルションは粒子径が非常に大きいという特長を有している。エマルションの粒子径は大きいとみずみずしい使用感となる一方、エマルションの合一が生じやすく乳化安定性が低くなることが知られているが2)、『ソリエマー』はピッカリング乳化剤であるため、この相反項目を解決することができ、優れた使用感と乳化安定性を両立することに成功した。

 

『ソリエマー』を用いた水中油型(O/W)エマルションの調製法

『ソリエマー』は粒子表面に疎水性のトリメチルシリル基と親水性のシラノール基を有し、両親媒性を示す一方、水や油には均一に分散しにくく凝集する傾向がある。そのため、『ソリエマー』を単純に水や油に加えて撹拌、乳化すると多くが凝集してしまう。

この課題を解決するためには『ソリエマー』をあらかじめ均一に分散させた後に、効率的に油水界面へ配向させる方法が有効ではないかと考え、乳化調製方法の検討を行った。そこで我々は『ソリエマー』の水相への親和性が塩基性物質と低級アルコールで制御できることを見いだし、乳化効率の良い新たな乳化調製法を確立した3)

まず、水や油に『ソリエマー』を分散させてエマルションを調製する。各乳化処方を表1に示し、調製したエマルションの画像を図2に示す。

 

 

表1の処方aでは『ソリエマー』をミネラルオイルに加え、ホモミキサーにて8,000rpmで撹拌しながら水、ヒドロキシエチルセルロース(以下、HEC)1%水溶液を徐添、撹拌したものを脱泡、静置してO/Wエマルションを得た。

処方bでは成分を配合する順番を変え、『ソリエマー』を水に加え、ホモミキサーにて8,000rpmで撹拌しながらミネラルオイル、水、HEC 1%水溶液の順番で徐添、撹拌することでO/Wエマルションを得た。

それぞれのO/Wエマルションの顕微鏡観察画像に示されるように、製剤中には想定された通り『ソリエマー』の凝集物が見られた。『ソリエマー』はホモミキサーで8,000rpmという強力な撹拌下においても、水または油のいずれにも均一に分散せず、その状態で乳化をしたことが製剤中に『ソリエマー』の凝集物を発生させた原因であると考えられた。これは『ソリエマー』が油水界面に効率的に配向していないことを示しており、乳化効率の低下や化粧品の使用感への悪影響が懸念された。

一方、我々が考案した『ソリエマー』の乳化調製法を図3に示す。我々は水溶液中のシリカのゼータ電位や、アルコールによる水相の疎水化に着目し、塩基性物質と低級アルコールを用いることで効率的にピッカリングエマルションを形成させることを見いだした。処方cでは、化粧品分野で一般的に使われる塩基性物質と低級アルコールとして水酸化カリウム(水酸化K)とイソペンチルジオール、乳化を安定させる増粘剤としてHECを選定し、表2の処方に基づいた乳化を行った。まず、水酸化Kとイソペンチルジオールを加えた水相に『ソリエマー』を加え、ホモミキサーにて4,000rpmで撹拌しながらオイル、水、HEC 1%水溶液およびpH調整剤としてクエン酸10%水溶液の順番で徐添、撹拌したものを脱泡、静置してO/Wエマルションを得た。その結果を図4に示す。得られたエマルションは、『ソリエマー』の凝集物のない、球状のO/Wエマルションを形成していることを確認した。この結果は『ソリエマー』の水相への親和性を制御したことによって、効率的に油水界面に配向したことを示唆している。

 

 

 

また、処方aやbで調製したエマルションは脱泡工程で気泡が多く発生していたが、処方cで調製したエマルションは脱泡工程で発生する気泡の量が非常に少なかった。これは、処方cの『ソリエマー』の分散工程では『ソリエマー』は水相への親和性が高いため気液界面に配向することはなく、油を加えた後に水およびpH調整剤を加えることで水相への親和性を下げて乳化能を発現させることで油水界面に『ソリエマー』が配向したためと考えられる。以上のことから、我々の見いだした乳化調製法では、塩基性物質と低級アルコールによって『ソリエマー』の分散性を制御することにより効率的なピッカリング乳化を実現できたことを示している。

 

『ソリエマー』を用いた水中油型(O/W)エマルションの性能評価

『ソリエマー』を用いたO/Wエマルションについて、他の乳化剤と性能比較した結果を図5に示す。『ソリエマー』は乳化性が良好で、50℃、30日の加速試験後もエマルションが保持され、油の分離がないことが確認された。この結果は、油種によらず、無極性油から極性油、シリコーンオイルなどさまざまな油に対しても同じであった。

 

一般的に、エマルションの粒子径は乳化安定性に大きく影響することが知られており、エマルションの粒子径が大きい場合や粒度分布が広い場合はクリーミングによるエマルション同士の合一やオストヴァルト熟成によって油相が分離すると考えられる。そのため、今回調製した『ソリエマー』のO/Wエマルションのような系では一般的に安定性は低いと考えられるが、『ソリエマー』は油水界面に固体粒子が配向するピッカリングエマルションを形成することから、高い乳化安定性を有していると考えられる。

一方で、従来のピッカリング乳化剤では安定的なエマルションを得るためには連続相が高粘度である必要があり、また加速試験における乳化安定性も処方によっては不十分なこともあった。また、化粧品の乳化で汎用されているノニオン界面活性剤は、得られるエマルションの粒径が非常に微細なため、高い乳化安定性が確認できた一方、使用感については従来通りのものであると想定された。以上の結果から、『ソリエマー』を用いて得られる粒子径の大きいエマルションは、ノニオン界面活性剤では達成が困難な新しい使用感になると考えられた。

そこで今回調製したエマルションのうち、乳化性および乳化安定性が優れていた『ソリエマー』およびノニオン界面活性剤で調製したエマルションについて、試験同意が得られた研究者5名で官能評価を実施した(図6)。官能評価では塗布中および塗布後の使用感についてノニオン界面活性剤を用いたO/Wエマルションを基準(3点)として『ソリエマー』を用いたO/Wエマルションの評価を実施した。その結果、『ソリエマー』のO/Wエマルションはピッカリング乳化でありながらきしみはノニオン界面活性剤と同等であり、さらにべたつきのなさとみずみずしさで優れていることがわかった。これは『ソリエマー』そのものがさらさらとした感触を有していること、また界面活性剤を使用していないためにべたつきがない製剤が作れることから、粒径の大きなエマルションの特長であるみずみずしさを最大限に引き出したためであると考えられる。

 

今後の展開

『ソリエマー』は完全な界面活性剤フリーによるO/Wエマルションの調製が可能であり、界面活性剤特有のべたつきなどを抑えてみずみずしい使用感を表現できる。また製剤を塗布した後の汗などによる皮膚上での油の再乳化を防ぐことによる耐水性の付与も期待される。そのため、『ソリエマー』は化粧水や乳液だけでなく、通常は油中水型(W/O)で調製されるような耐水性が求められる日焼け止め製品やメイク製品などへの応用もできると考えられ、さまざまなO/Wエマルションの乳化剤として使用することができると期待される。

 

参考文献

  1.  W.Ramsden,Proc. R. Soc. London,72,156-164(1903)
  2.  T.Okamoto,et al.,J. Soc. Cosmet.Chem. Jpn.,39(4),290-297(2005)
  3.  濵野浩佑,中村泰司,月刊ファインケミカル,52(12),37-44(2023)

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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木粉配合高機能テキスタイルウッドレザー『MOC-TEX®』(モックテックス®)の開発 /magazine/archives/7392?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e6%259c%25a8%25e7%25b2%2589%25e9%2585%258d%25e5%2590%2588%25e9%25ab%2598%25e6%25a9%259f%25e8%2583%25bd%25e3%2583%2586%25e3%2582%25ad%25e3%2582%25b9%25e3%2582%25bf%25e3%2582%25a4%25e3%2583%25ab%25e3%2582%25a6%25e3%2583%2583%25e3%2583%2589%25e3%2583%25ac%25e3%2582%25b6%25e3%2583%25bc%25e3%2580%258emoc-tex /magazine/archives/7392#respond Tue, 14 Nov 2023 07:22:43 +0000 /magazine/?p=7392 サンノプコ㈱ 基盤製品研究部 主任 渡辺 将浩 [お問い合わせ先] サンノプコ㈱ スペシャリティ産業部   PDFファイル   近年、再生可能な資源である木材は持続可能で環境負荷の低い材料として注目を…

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サンノプコ㈱ 基盤製品研究部

主任 渡辺 将浩

[お問い合わせ先]
サンノプコ㈱ スペシャリティ産業部

 

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近年、再生可能な資源である木材は持続可能で環境負荷の低い材料として注目を集めている。一方、日本は森林が国土の7割を占めるにもかかわらず、その手入れが十分に行われず、森林の機能が生かされていない1)。国産木材を活用することは、森林資源の価値を向上し、適正管理、再生産の循環につなげていくために重要である。

木材の活用例として、木粉とプラスチックを複合化したウッドプラスチックコンポジット(WPC)がある。木材の風合いを残しながらプラスチックの性質も併せ持ち、デッキ材などのエクステリア用途で多く使用されている2)。木粉は間伐材や建築資材の製材過程で生じる木くずなどの廃材を細かく粉砕したものであり3)、木粉の利用は廃木材のアップサイクルといえる。

これまでWPCは硬質なものが一般的で、柔軟な風合いを有する素材はあまり見られなかった。サンノプコ㈱は、木粉の新しい用途として、皮革(本革、合成皮革)分野で近年注目を集めている「植物由来ヴィーガンレザー」への適用を試みた4)

本稿では植物由来ヴィーガンレザーとして当社が開発したウッドレザー『MOC-TEX®』(モックテックス®)(図1)を紹介する。本開発品は木粉とバイオポリウレタン樹脂から成り、本革の見た目・質感を再現した高機能テキスタイルである。

 

植物由来ヴィーガンレザーについて

合成皮革は近年、本革と比較して動物由来でないことからヴィーガンレザーと呼ばれ、販売を拡大している。ヴィーガンレザーは現在、石油由来のものが中心であるが、サステナビリティの観点から再生可能な植物原料を使用するヴィーガンレザーが注目を集めている。

植物由来ヴィーガンレザーは、本革のようになめしを行わないため、本革より廃水や二酸化炭素発生量が少なく、製造時の環境負荷が低い。合成皮革に対しては、植物を原料に使用しているため、石油資源の使用量削減や資源循環につなげることができ、カーボンニュートラルの観点で優れている。

これまで、パイナップルの葉やリンゴの廃繊維、ブドウの搾りかす、マッシュルームの菌糸体など、さまざまな植物を原料とした植物由来ヴィーガンレザーが開発されている。『MOCTEX®』は国産木材の木くずをアップサイクルし、木質感がありながら、本革の見た目・質感を再現させたもので、これまでの植物由来ヴィーガンレザーにはない新しい素材である。

 

『MOC-TEX®』の概要

『MOC-TEX®』は一般的な合成皮革と同様、図2に示す3層(表皮層、接着層、基布)で構成された積層体である。それぞれの層について以下で説明する。

 

『MOC-TEX®』の表皮層には、本革に類似した弾性や柔軟性が得られるポリウレタン樹脂を用いた。環境負荷低減の観点から、植物性バイオマスを含有した水性バイオポリウレタン樹脂を開発し、これに木粉を40~60%複合することで木質感を出した。水性バイオポリウレタン樹脂のバイオマス含有分と合わせると表皮層の植物性バイオマス比率は60~80%であり、石油資源の使用量低減や資源循環の促進に貢献できる。さらに、一般的な合成皮革の表皮層用塗工液は溶剤系のため、塗工・乾燥時の臭気など、環境面で課題があるが、『MOC-TEX®』の表皮層用塗工液は水を媒体としているため、製造時に有機溶剤臭はなく、木質の良い香りがする。

接着層や基布は、一般的な合成皮革と同様の素材が使用でき、基布としては天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維から成る織布、不織布、編布、起毛布、樹脂加工布などが使用できる。『MOC-TEX®』では基布も植物由来にこだわり、綿やレーヨンを優先的に選定している。必要により、一般的な合成皮革と同様に、表皮層の上にプリント層を設けたり、表面の耐久性を向上させる目的で表面処理層を設けたりすることもできる。

 

『MOC-TEX®』の特長

『MOC-TEX®』は木材由来の以下の特長を有する。

(1)木質感

表皮層は木材を多く含むため木材のナチュラルな色や質感を有し、一部木質繊維が表面に出ることでヌバックのような風合いを有する。木材が樹種によって色が変わるのと同様に、採用する木粉の樹種により表皮の色が異なる。また木粉以外に木材を脱色した木材パルプの粉末を使用した場合は白色にすることも可能である(図1)。保存状態が良好であれば木材おのおのの特有の香りも保持できる。

(2)吸放湿性

吸放湿性とは素材が空気中の湿気を吸収したり放出したりする機能である。一般的に本革は吸放湿性が高く蒸れにくいのに対し、合成皮革は吸放湿性が低く蒸れやすい。蒸れやすいと靴では不衛生になりやすく、スマートフォンケースやバッグなど手で長時間触れるものでは汗によるベタつきが生じるという欠点がある。『MOC-TEX®』は牛革と比べ吸湿しにくいが吸湿率に対する放湿率は75%で牛革の63%より高いため蒸れにくい(図3)。

 

(3)消臭性

消臭性とは、素材近傍の空気中における悪臭成分濃度を低減させる機能である。悪臭成分とは、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸などの汗臭や加齢臭の原因となる化合物などを指す。代表例として、アンモニアの消臭性試験を行った結果を図4に示す。『MOC-TEX®』は牛革と同様に空気中のアンモニア濃度を100ppmから検知管の検出限界(0.5ppm)以下に低下させる消臭性を有していることを確認した。

 

前述した特長を表1にまとめた。木質感、吸放湿性、消臭性というこれらの特長を生かして、家具、鞄、雑貨、アパレル、靴などへの用途展開を考えている(図5)。特に国産木材の使用にこだわった椅子、ソファへの適用は国産木材利用促進につながる。

 

 

『MOC-TEX®』の製造技術

製造プロセスも一般的な合成皮革と同様に表皮層用塗工液の作成、離型紙への塗工・乾燥、接着層用塗工液の塗工・乾燥、基布の貼り付け、巻き取りというプロセスで製造できる(図6)。

 

表皮層用塗工液作成の工程では主に木粉と水性バイオポリウレタン樹脂、水、必要により各種添加剤(分散剤、消泡剤、湿潤剤、粘弾性調整剤)を配合する。『MOC-TEX®』は一般的な合成皮革と異なり、表皮層に木粉を多く含有するため、次の観点を考慮する必要がある。

①木粉の凝集

木粉は凝集しやすい材料であり、凝集を防ぐため分散剤が使用される(図7)。凝集が生じると図7(右)のような状態となり、ハンドリングが困難となる。

 

②木粉から生じる泡

木材は細胞が寄り集まった多孔質材料であり、木粉も同様である。木粉を水に分散させると、木粉内の多孔構造中に含んでいる空気が徐々に泡として液中に出てくる。塗工時に泡が存在すると乾燥後の表皮層に円形の欠陥が生じる原因となる。そこで消泡剤が用いられるが、消泡剤の種類によってはハジキと呼ばれる塗膜欠陥の原因になることもあり、適切な消泡剤を選択する必要がある。

③塗工適性

『MOC-TEX®』の表皮層用塗工液は水性のため表面張力が高く、一般的な有機溶剤系の合成皮革表皮層用塗工液に比べてハジキなどの塗膜欠陥が生じやすく、湿潤剤や粘弾性調整剤などで塗工適性をコントロールする必要がある。

④表皮層の柔軟性

『MOC-TEX®』は本革のような柔軟性が必要である。表皮層に木粉を多く入れるほど、表皮層は硬く、折り曲げた際に割れやすくなる。その対策としてポリウレタン樹脂を柔らかくしすぎると耐摩耗性などの耐久性が低下するため、柔軟性と耐久性のバランスをとることが重要である。

 

サンノプコ㈱では、各種分散剤(『SNディスパーサント』シリーズなど5))、消泡剤(『SNデフォーマー』シリーズなど6))、湿潤剤(『SNウェット』シリーズなど)や粘弾性調整剤(『SNシックナー』シリーズなど7))を製造販売しており、これまで培った技術と経験により①~③の観点を踏まえた最適な添加剤を選定した。また、三洋化成グループは繊維、塗料、インキ、接着剤用などのポリウレタン樹脂を製造販売しており、用途に応じてポリウレタン樹脂の物性(機械物性、耐加水分解性、耐光性など)を制御する技術と経験を有している8)。④の柔軟性と耐久性を両立させるため、これらの知見を生かして最適な物性に設計した水性バイオポリウレタン樹脂を新たに開発した。

 

今後の展望

『MOC-TEX®』の技術は、2022年末のプレスリリース後、多くの反響をいただいており、現在、早期の実用化に向けた課題抽出や製造プロセス検討などを行っている。

今後も国産木材利用促進、カーボンニュートラル実現に向けて開発を進め、多くの製品に採用いただくことで、木材の魅力を伝えていきたい。

 

参考文献

  1. 中島孝雄、大島克仁、「木材の魅力・体力・底力」木の力、別冊付録第8章、日本木材加工技術協会関西支部
  2. 藤澤泰士、鈴木聡、長谷川益夫、高橋理平、富山県農林水産総合技術センター木材研究所研究報告、3、25-31(2011)
  3. 伊藤弘和、木質バイオマスのマテリアル利用・市場動向、株式会社シーエムシー出版、14-23(2015)
  4. 渡辺将浩、紙パルプ技術タイムス8月号、株式会社テックタイムス、(2023)
  5. 澤熊耕平、パフォーマンス・ケミカルス、三洋化成ニュース、No.507(2018)
  6. 松村陽平、パフォーマンス・ケミカルス、三洋化成ニュース、No.537(2023)
  7. サンヨー・プロダクト・トピックス、三洋化成ニュース、No.501、9-11(2017)
  8. サンヨー・プロダクト・トピックス、三洋化成ニュース、No.517、9-11(2019)

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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バイオ・メディカル事業本部 バイオ研究部 医療機器研究グループ

ユニットチーフ 近藤 伸哉

[お問い合わせ先]
バイオ・メディカル事業本部 営業部

 

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腎臓は毒素を尿として排出するなど生命維持に欠かせない多くの機能を担っている。腎不全などの病気によって腎臓機能が大きく低下した患者は、体内の老廃物や過剰な水分を取り出すために人工透析(血液透析)が必要となる。人工透析を必要とする患者は年々増え続けており、日本透析医学会統計調査によると、日本では2021年末で約35万人まで増加している。それに伴い透析に使用される人工腎臓の需要は年々高まってきている。本稿では、従来に比べてより短時間で硬化できるように開発した当社の人工腎臓用ウレタンポッティング材について紹介する。

 

人工腎臓とは

腎臓は、体内の老廃物や過剰な水分を排泄する、血液が酸性へ傾かないよう電解質を調節する、ホルモンを分泌するなど多くの機能を持つ重要な臓器であり、これらの腎臓機能が低下すると、腎臓の代わりに血液を浄化するものが必要となる。血液を浄化するにはさまざまな方法があるが、最も広く使用されている方法が人工透析である。人工透析は血液を一度体外に取り出し、血液中の老廃物や過剰な水分を除去したのち再び体内に戻す方法で、これに使用される透析器(ダイアライザー)を一般に人工腎臓と呼ぶ(図1)。

 

代表的な人工腎臓は長さが30cmほどの筒状になっており、プラスチック製のケース(ハウジング)の中に髪の毛数本分ほどの細さの中空糸とよばれる糸が約1万本も入っている(図2)。中空糸はストローのように中心部に穴があいたもので、その穴の中を血液、糸の外側を透析液(体液に近い濃度の電解質の水溶液)が流れる。さらに、この糸は小さな分子は通すが大きな分子は通さない微細な穴を有する半透膜でできており、この膜を介して、体から取り出した血液と透析液を接触させ、大きな分子である血液中の血球や有用なタンパク質などは透析液側に通さずに、分子が小さい尿素・尿酸などの老廃物や余分な水分のみを透析液側に送り出す。人工透析では、血液を連続的に中空糸に通すことによって、体内の血液を浄化している。

 

人工腎臓用ポッティング材

人工腎臓に使用する中空糸の両端部を束ね、この両端部とハウジングを固定する接着剤が人工腎臓用ポッティング材である。人工腎臓用ポッティング材は患者の血液に触れるため、血液適合性や高い安全性が求められる。人工腎臓用ポッティング材としては、イソシアネート成分とポリオール成分からなる2液タイプのウレタンポッティング材が主流である。これはウレタンが血液適合性や中空糸およびハウジングとの接着性に優れるよう設計しやすいだけでなく、適度な硬度・柔軟性・強度を有しているためである。また原料となるイソシアネートやポリオールも低粘度であり、温和な条件で反応・固化できることも理由の一つである。

安全性および使用実績の観点から、現在ウレタンポッティング材は主に表1に示すような組成で構成されている。これ以外にポリオール成分には触媒作用のある物質が配合される。海外ではスズ(Sn)触媒を使用している場合もあるが、国内では安全性重視の観点から金属触媒は使用することができないため、代わりに硬化反応を促進する機能を持つアミノ基含有ポリオールなどが使用される。

 

ポッティング材の成型方法と求められる機能・物性

ポッティング材を用いた人工腎臓の成型方法は次のとおりである(図3)。①主剤(イソシアネート成分)と硬化剤(ポリオール成分)を2液混合機で混合する。②中空糸をハウジング内に入れ、遠心回転させながらハウジング両端部に混合液を注入し成型する。③遠心成型後に取り出して養生する。④中空糸を開口するために不要部分を切断し、キャップを付け水洗後、包装する。その後、滅菌工程を経て最終製品として病院で患者に使用する。

 

中空糸をしっかりと束ね、ハウジングに接着固定するためには、両端部の中空糸にのみ均一にポッティング材を浸透させなければならない。そのためにはできるかぎり低粘度かつ増粘速度の遅いポッティング材が好まれる。その一方で、粘度が低く増粘速度が遅すぎるとポッティング材が中空糸の穴から中空糸内部にまで入り込み、不要部分を切断しても閉塞部分が残ることで不具合が発生する場合がある。したがって反応固化時の粘度と増粘速度のバランスがポッティング材開発の重要なポイントとなる。

 

当社ポッティング材について

当社ではこれまで培ってきたウレタンに関する技術や知見を生かし、人工腎臓用ウレタンポッティング材『ポリメディカ』シリーズを開発、販売してきた。『ポリメディカMA-130 / MB-130』は当社の汎用的なポッティング材であり、適度な粘度と増粘速度を有し、かつ安全性が高い材として好評を得てきた。

近年、腎機能が低下した患者数の増加に伴い、人工腎臓の生産性の向上に対するニーズが高まっている。生産性の向上には、中空糸間への充填性を向上するための低粘度化と、切断までの養生時間を短縮するための高速硬化が必要である。一般に高速硬化させるためには硬化促進作用のあるアミノ基含有ポリオールの含有量を多くする方法がとられているが、その方法では注入の際の混合液の粘度が高くなる、可使時間(混合液を注入できる時間)が短くなるなど、注入時の作業性に問題があった。このように、低粘度と高速硬化は相反する特性であったが、当社はこれまで培ってきたポリオール設計技術により、低粘度かつ高速硬化を両立させることに成功し、『ポリメディカMA-6002 / MB-6002(開発品)』を開発した。

図4に『ポリメディカMA-6002 / MB-6002』の硬化挙動のイメージ図を示す。横軸は人工腎臓の生産工程時間、縦軸はポッティング材の硬化度である。なお、硬化度については、ゲル化までは粘度、ゲル化後は硬度を参照した。青線を従来のポッティング材、赤線を高速硬化品の『ポリメディカMA-6002 / MB-6002』で示した。赤線のほうが混合後の粘度が低く、浸透性に優れる。また、硬化が速いためより短時間で切断可能な硬度に達する理想的な挙動を示す。

 

実際に当社従来品『ポリメディカMA-130 / MB-130』と比較した場合の性能・物性および硬化挙動を表2、図5に示す。『ポリメディカMA-6002 / MB-6002』は、当社従来品と比べて混合後粘度が低いにもかかわらず、ゲル化後の硬化が速く、生産性が向上することがわかる(表2、図5)。低粘度と高速硬化を両立させた『ポリメディカMA-6002 / MB-6002』は、人工腎臓の生産性の向上に大きく貢献できる。表2にはその性能と物性値を示した。これらはいずれも代表値であり、注型・流動性、成型条件など顧客ごとの条件に合わせたカスタマイズも可能である。

 

 

今後の展開とアクション

当社のポッティング材は中空糸両端部とハウジングの固定用として人工腎臓用途に適しているが、同様の構造を持つ家庭用浄水器や工業用大型浄水器のポッティング材としても使用可能である。また、環境汚染や毒性の観点から金属触媒を使用しておらず、当社の触媒設計技術を駆使した金属フリーの触媒を使用しているのも『ポリメディカ』シリーズの特長である。今後は、生産性の向上に加え、ポッティング材からの溶出物量を減らすなど、さらなる安全性の追求が求められると予測されており、硬化速度だけでなく、安全性の面でも開発が進んでいる。『ポリメディカ』シリーズは、安全で質の高い製品を提供し続けることでSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に貢献する製品である。今後もさらに良質な製品を、日本はもちろん世界の国や地域にも広げ、人々の健康な暮らしに貢献していく。

 

参考文献

  1.  岩田敬治編『ポリウレタン樹脂ハンドブック』日刊工業新聞

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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リサイクルPETを用いたトナーバインダーの開発 /magazine/archives/7028?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e3%2583%25aa%25e3%2582%25b5%25e3%2582%25a4%25e3%2582%25af%25e3%2583%25abpet%25e3%2582%2592%25e7%2594%25a8%25e3%2581%2584%25e3%2581%259f%25e3%2583%2588%25e3%2583%258a%25e3%2583%25bc%25e3%2583%2590%25e3%2582%25a4%25e3%2583%25b3%25e3%2583%2580%25e3%2583%25bc%25e3%2581%25ae%25e9%2596%258b%25e7%2599%25ba /magazine/archives/7028#respond Wed, 12 Jul 2023 06:45:39 +0000 /magazine/?p=7028 画像材料事業本部 研究部 画像薬剤研究グループ ユニットチーフ 前田 真一 [お問い合わせ先] 画像材料事業本部 営業部   PDFファイル   複合機は、コピー・プリンター(印刷)・スキャナー・FA…

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画像材料事業本部 研究部 画像薬剤研究グループ

ユニットチーフ 前田 真一

[お問い合わせ先]
画像材料事業本部 営業部

 

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複合機は、コピー・プリンター(印刷)・スキャナー・FAXなどの多機能を搭載したデバイスで、限られたスペースで複雑な動作を高速で行い、高精度なドキュメントを短時間で完成させている。これを可能にしているのが、電子写真プロセスと呼ばれる画像形成方法である。

市場のドキュメントに対する要求は1990年代のデジタル化に端を発し、カラー化、高画質化、オンデマンド化へと移行している。近年は、世界的な環境意識の高まりを背景に、複写機・プリンターの分野においても、CO2排出量削減などの環境対応に対するニーズがますます高まっている。

本稿では、そのニーズに応えるべく環境対応型トナー向けに開発した「リサイクルポリエチレンテレフタレート(リサイクルPET)含有トナーバインダー」の技術概要を紹介する。

 

電子写真プロセスとトナー

電子写真プロセスは図1に示すように①帯電→②露光→③現像→④転写→⑤定着→⑥クリーニングという工程からなっている。感光体ドラムに均一に電荷を付与した後、画像となる部分に光を照射して潜像を形成、荷電したトナーは電気的に潜像へ付着、紙に転写されたトナーは、ヒートローラーで加熱・加圧されることによって溶融し、紙に浸透後、冷えて固化することで紙に定着する。いずれの工程にもトナーの適合が求められる。

トナーは、帯電機能を有した数μm径の非常に小さな粒子で、図2に示すような複数の成分で構成されている。

そのなかでも、トナーの構成成分の80~90%はトナーバインダー(樹脂)であり、トナーにおいてバインダーが果たす役割は大きい。その主な役割は、紙への定着性、帯電性、添加剤(顔料、ワックス、荷電制御剤など)の分散性、保存性、耐久性の付与などが挙げられる。複写機・コピー機などの高速化、高画質化などに対応すべく、トナーバインダーの高機能化が進んでいる。

そのほかの構成成分としては、発色成分としての顔料、定着ローラーへの融着防止としてのワックス、トナーの安定帯電のための荷電制御剤、トナーの粉体流動性やクリーニング性を向上する外添剤などがある。

 

 

トナーバインダー

トナーバインダーは、基本的には熱可塑性樹脂であれば使用できる。ただし、紙への定着性、輸送時の保存性の観点から軟化点が90~160℃、ガラス転移点が50~70℃のものが望まれている。また、トナーにはさまざまな特性が要求されるため、それらを満足できる樹脂は限定され、現在では、スチレンアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂が市場の90%以上を占めているといわれている。

スチレンアクリル系樹脂はワックス分散性や粉砕性に優れ、帯電時の環境依存性が小さいなどの特長がある。一方、ポリエステル系樹脂は、スチレンアクリル系樹脂に比べてより低温定着が可能で、硬度が高く、紙に定着した画像の擦り強度の点で優れている。また、極性が高く顔料分散性に優れ、光沢も出やすいといった特長もあり、トナーに高画質品位や低温定着が求められるなかでポリエステル系トナーバインダーへの使用割合は年々増加してきている。

代表的なポリエステル樹脂の構造とモノマーを図3に示す。ポリエステル樹脂のなかでも、トナーバインダーには、帯電保持性が高い非晶質のポリエステル樹脂が使用される。

 

トナーの環境対応

省エネルギーに対する取り組みがますます重要視されている今日、エネルギーの消費が大きいトナーの定着において、低温定着化が求められている。従来、低温定着を達成する技術として、トナーバインダーのガラス転移点や軟化点を下げる検討がされてきた。しかし、ガラス転移点や軟化点を下げすぎると、トナーの保存性が悪化するため、本技術による低温定着化には限界があった。

その後、これらのトレードオフ(課題)を克服する技術として結晶性ポリエステル樹脂との併用技術が開発された。結晶性ポリエステル樹脂は、その融点で急激に溶融して低粘度化(シャープメルト化)するため、少ない熱エネルギーで樹脂の粘度を下げることができ、定着助剤として低温定着性と保存性をより高いレベルで両立させることを可能にした。

また、さらなる低温定着化を実現する技術として、コアに低融点の樹脂を用いて低温定着性を満足させ、その外側を高融点の樹脂で覆うことで保存性を確保するカプセル構造のコアシェルトナーが開発された。このように、完全な機能分離制御技術により低温定着性と保存性の両立が行われてきた。

近年、SDGs達成に向け、地球温暖化防止に取り組む機運が高まりを見せている。トナーにおいても、さらなる低温定着化に加え、トナーバインダーの原料を化石燃料由来からデンプンなどの植物由来バイオマス原料やリサイクルプラスチック原料へ転換するなど、さらなるCO2排出量削減に向けた開発が各メーカーで進められている。

当社でも、リサイクルプラスチックを活用(アップサイクル)し、トナー性能と環境負荷低減を両立させるべく新たなトナーバインダーの開発を行っている。

 

リサイクルPETを用いたトナーバインダーの開発

当社が、トナーバインダー用の原料として着目したリサイクルプラスチックは、使用済みのPETである。リサイクルPETに着目した理由は、回収量が安定していること、ポリエステル系トナーバインダーと同じポリエステルであるためエステル交換で樹脂骨格に組み込みやすいことが挙げられる。

リサイクルPETをトナーバインダーへとアップサイクルするうえでのポイントは、非晶性化である。リサイクルPETは融点が約260℃の結晶性樹脂である。しかし、結晶性のポリエステル樹脂は、体積抵抗値が低いため帯電保持力が弱く帯電量が経時的に低下しやすい。そのような樹脂をトナーバインダーに用いると連続印刷時の画質の安定性が悪くなるなどの問題があるため、トナーバインダーには帯電保持性の高い非晶性のポリエステル樹脂が使用されている。しかも、分子量はトナーバインダー用ポリエステル樹脂が数千~数万程度のオリゴマー体であるのに対して、リサイクルPETは分子量が数十万~数百万以上の超高分子量体と大きく異なる。このリサイクルPETをいかに非晶化して樹脂骨格に組み込むかが重要となる。

非晶性化するためには結晶化したポリマー分子鎖の規則的な配列を阻害する成分(非結晶性成分)を導入する必要がある。導入する非結晶性成分としては、酸成分モノマーとアルコール成分モノマーのどちらでもよく、目的・用途によって使い分けている。一般的に導入する非結晶性成分を増やすと非晶性化しやすくなるが、トナーバインダー中のリサイクルPET比率は低くなる。リサイクルPET比率が高くなるよう、導入する非結晶性成分の種類の選定と量の調整が必要となる。

図4に示すように、リサイクルPET含有トナーバインダーの製造プロセスは、原料を加えて重合とエステル交換を行うが、分子量制御や機能付与などは通常のトナーバインダーと同様である。それに加え、リサイクルPETのアップサイクルでは、リサイクルPETの非晶化やそれに適した反応条件(反応温度、反応時間など)の最適化などを行っている。このような複数の因子を同時に制御する技術には、当社がこれまでトナーバインダーの開発で長年培ってきた多くの知見が生かされている。

 

こうして開発したリサイクルPET含有トナーバインダーは、リサイクルPET比率を50%以上にすることができた。その粘弾性は当社のポリエステル系トナーバインダーとほぼ同等の挙動を示した(図5)。また、実際に当社でトナー化して評価したところ、当社のポリエステル系トナーバインダーを使用してトナー化した場合と同等の低温定着性を確認できた(図6)。

 

 

今後の予定

当社は、リサイクルPETをトナーバインダーへとアップサイクルする技術を開発し、50%以上の高い再生材比率と低温定着性の両立を達成することができた。本開発品の一般的な樹脂物性(ガラス転移点、酸価、分子量など)は通常のトナーバインダーと同様に制御可能であり、ユーザーニーズに合わせたグレードを取りそろえていく予定である。複写機メーカー各社は地球環境負荷低減に向けたさまざまな開発を進めており、当社はリサイクルプラスチックやバイオマス原料などをトナーバインダー用原料に転換する技術開発などを通して各社の環境対応の取り組みに貢献していく。

 

参考文献

  1. 「電子写真技術と機能部品」平山技術士事務所
    https://hirayama-ce.com/commentary/electrophotography1/
  2. 「3分でわかる技術の超キホン レーザープリンタの基礎知識(印刷の仕組み・プロセスなど)」アイアール技術者教育研究所
    https://engineer-education.com/laser-printer_basic/
  3. 「コピー機と複合機と複写機…何が違うの?」複合機NAVI
    https://www.copybiz.jp/column/
  4. 「バイオマストナー技術」株式会社リコー
    https://jp.ricoh.com/technology/tech/035_biomass
  5. 「非穀物原料のバイオ樹脂を用いたトナー」シャープ技報 第101号・2010年8月
  6. 「バイオマス由来や廃棄資源を活用する材料技術による複合機のプラスチック由来CO2排出量のネット・ゼロ化」コニカミノルタ株式会社
    https://www.challenge-zero.jp/jp/casestudy/51

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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エクソソームを含む細胞外小胞(EV)の高回収率な精製技術 /magazine/archives/6900?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e3%2582%25a8%25e3%2582%25af%25e3%2582%25bd%25e3%2582%25bd%25e3%2583%25bc%25e3%2583%25a0%25e3%2582%2592%25e5%2590%25ab%25e3%2582%2580%25e7%25b4%25b0%25e8%2583%259e%25e5%25a4%2596%25e5%25b0%258f%25e8%2583%259e%25ef%25bc%2588ev%25ef%25bc%2589%25e3%2581%25ae%25e9%25ab%2598%25e5%259b%259e%25e5%258f%258e%25e7%258e%2587%25e3%2581%25aa /magazine/archives/6900#respond Mon, 05 Jun 2023 04:49:58 +0000 /magazine/?p=6900 バイオ・メディカル事業本部 研究部 医薬品研究グループ ユニットチーフ 太田 浩二 [お問い合わせ先] バイオ・メディカル事業本部 営業部   PDFファイル   近年、高齢化や生活習慣病増大に起因す…

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バイオ・メディカル事業本部 研究部 医薬品研究グループ

ユニットチーフ 太田 浩二

[お問い合わせ先]
バイオ・メディカル事業本部 営業部

 

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近年、高齢化や生活習慣病増大に起因する医療費の高騰、医療人材のひっぱく、医療制度改革、さらにはコロナ禍に伴う行動変容などを背景として、医療業界は大きな転換期に直面している。とりわけ健康寿命と生命寿命の差を縮めることは喫緊の課題となっており、疾病の早期発見や再生医療技術の進化へ大きな期待が向けられている。現在、これらの分野で非常に高い注目を集めているのが「細胞外小胞(Extracellular Vesicles、以下、EV)」と呼ばれる物質である。

EVの発見は30年以上前になるが、当時は細胞が不要な物質を捨てるただのゴミ箱と位置付けられ全く注目を集めていなかった。ところが、がんをはじめとするさまざまな病気、組織の修復、免疫応答、老化現象など多様な生命現象への関与が示されるやいなや、わずか十数年で爆発的に研究が加速し、今日では多くの媒体で特集が組まれるほどに注目を集めている。

本稿では、当社がこれまで培ってきた界面制御技術を生かして開発したユニークなEVの精製技術(バイオセパレーション技術)について紹介する。

 

細胞外小胞(EV)とは

EVは細胞が分泌する顆粒状の物質で、その表面は細胞膜由来の脂質、タンパク質を含み、内部には核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)やタンパク質など細胞内の物質を含んでいる(図1)。その産生経路もしくはサイズによってエクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体の3種に分別される。しかし、これらの定義や産生経路の特定は非常に困難であり、しばしば混乱を招いていたため、2011年に設立された国際細胞外小胞学会(International Society for Extracellular Vesicles:ISEV)は一くくりに「Extracellular Vesicles」と呼ぶことを推奨している。本稿でもエクソソームを含む細胞外小胞にEVという名称を使用する。

 

細胞から分泌されたEVは体液(血液、髄液、唾液、尿)に乗って体内を循環し、表面または内部の分子を巧みに利用して細胞間のコミュニケーションを行う役割を担うことがわかっている。

体内を循環しているEVを別の細胞が受け取ると、さまざまな反応を経て、疾病の進行や治療効果に関与する。例えば、がん細胞が放出するEVは、がんの転移促進、免疫細胞の抑制、新生血管の誘導などに働くことが示されている。EVは分泌元の細胞の情報を含んでいることから、体液中のEVを採取して疾病の情報を解析し、超早期に病気を発見する新たな診断法が開発されている(図2)。また、一部の細胞が放出するEVは腎機能の改善や、炎症抑制などの治療効果をもたらすことが報告されており、治療の難しい神経変性疾患であるアルツハイマー型認知症などにも適用が検討されている。

 

このように国内外のさまざまな研究機関、企業でEVに関する研究が進行しており、医療分野だけでなく、食品や農業などさまざまな分野での可能性も示されている。

一方で、EVを医療現場で利用するためには、適切な投与量設計や副作用の有無などの臨床成績、対応する法律整備、市場に供給可能な生産方法やコストなど、乗り越えなければならない壁がいくつか存在する1)。特に、EVを体液や培養液などから高効率に高精製度で取り出すバイオセパレーション技術は、多くの研究で非常に手技的で煩雑な方法で行われており、たかだか10mL程度をバイオセパレーションするのに数日要するなど、産業応用のボトルネックになっている。

 

EVのバイオセパレーション

バイオセパレーションは生体由来試料より細胞・タンパク質・核酸などの生体物質を選択的に分離する技術を指し、診断においては疾患の検査感度に直結し、治療においては薬効、副作用に影響する創薬のコアとも呼べる重要技術である。現在、EVのバイオセパレーション方法としては超遠心分離機を利用した手法がゴールドスタンダードとされている。一般的な超遠心分離のイメージは目標物が分離機の底にたまって回収できるイメージであろうが、この方法でEVを高純度で得る場合は、カクテルのように密度勾配をつくった液体中に試料を投入し、遠心分離後の特定の高さに現れる層を吸い出して回収するという非常に繊細な手技が必要になる。この複雑かつ長時間の操作で回収率は20%に満たないというのがEV特有の難しさであり、EVの実用化においてバイオセパレーションが壁といわれるゆえんである。上記の課題解決に対するニーズは大きく、超遠心法に比較して簡易な操作でバイオセパレーションできる研究試薬が上市されているので、大別してまとめた(図3)。

 

しかしながら、これら製品のほとんどは操作性を改善させる一方で収率や精製度が犠牲になるものも多い。また、アフィニティ法などEV親和性を持たせた固定化担体へEVを吸着させる手法では、精製した後に固定化担体から剝がすために化学試薬を用いるものもあり、創薬を対象とした場合、化学試薬を除去する必要があるなど一長一短であるのが現状である。

 

新規なバイオセパレーション方法『EXORPTION法』

当社は、国立大学法人徳島大学大学院医歯薬学研究部保健学域生体機能解析学分野冨永辰也教授、および同大学院社会産業理工学研究部理工学域右手浩一教授らの研究グループと共同で、ハイドロゲルビーズを用いてさまざまな体液からEVを高効率・高収率・高精製度に回収する新規なバイオセパレーション方法『EXORPTION法』を開発した。

当社はこれまで尿や血液などの体液を効率よく処理する技術を開発してきた。体外診断用医薬品の事業ではきょう雑物の多い体液から目的生体分子を取り出すバイオセパレーション用磁気ビーズを製品化し、多くのノウハウを蓄積している。これらの経験と界面制御技術を駆使することで、従来のバイオセパレーション方法の課題を解決するユニークな原理を『EXORPTION法』として具現化することに成功した。

『EXORPTION法』によるEVの精製について概略を図4に示した。本方法は血液、尿、細胞培養液などの生体由来試料とハイドロゲルビーズを接触させるところから始まる。ビーズは生体由来試料を吸収するよう設計しており、30分程度でビーズが膨潤する。微視的に見るとビーズ表面は網目のようになっており、吸収の過程で液体が網目を抜けてビーズ内に移動することで①低分子夾雑物、②EV、③高分子夾雑物の分離が起こる。低分子夾雑物は網目の中を通り抜けビーズ中に吸収される。EVはビーズ表面がEV親和成分で覆われているため網目に捕捉される。高分子夾雑物はビーズ表面と強く相互作用しないため、次の洗浄工程にて洗い流される。特に高分子夾雑物は検体のpHによって立体構造(コンホメーション)やゼータ電位が変化するため、検体の個体差によって精製度が変化することがあるが、本方法はビーズがバッファー効果を有しており、検体は一定のpHに収束するため、精製度のバラつきが少ない。

 

次工程でビーズに吸着したEVを遊離液によって脱離することで最終生成物が得られる。実質ビーズの膨潤とEVの遊離でバイオセパレーションが完了するので、スケールによらず90分という短時間で精製が可能となっている。

プロセス上の特長は以上になるが、本方法の最大の特長は検体あたりのEV回収量にあり、ゴールドスタンダードの超遠心法と比較して10倍以上の回収率を示す(図5)。この特長は体液中に極微量に含まれるEVを高感度に検出することに貢献するが、それだけでなく、創薬においても治療に用いるEVを大量に得るために有用な技術となる。また、一部のアフィニティ精製法と異なり、最終生成物に試薬由来の化学物質を含まないことやEVの脂質二重膜構造の破壊がない点なども創薬においては大きなメリットとなる。

 

今後の展開

当社のバイオセパレーション法『EXORPTION法』は従来にないユニークな原理を使って、EVの高効率・高回収・高精製を達成しており、EVの社会実装に貢献できる技術と考える。現在、疾病の早期発見や再生医療での実装に向けた開発の主体はアカデミアであり、まずはアカデミアの開発支援のために本技術を研究試薬として実装していく。

本稿で示した通り、EVの研究が進めば、これまでにない画期的な病気の診断・治療法の開発が期待できる。当社は『EXORPTION法』を通じてEV研究のさらなる発展に貢献していきたい。

 

参考文献
1)エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する報告書
令和5年1月17日 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 科学委員会

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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身の回りの製品製造に使用される安全・安心な消泡剤 /magazine/archives/6729?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e8%25ba%25ab%25e3%2581%25ae%25e5%259b%259e%25e3%2582%258a%25e3%2581%25ae%25e8%25a3%25bd%25e5%2593%2581%25e8%25a3%25bd%25e9%2580%25a0%25e3%2581%25ab%25e4%25bd%25bf%25e7%2594%25a8%25e3%2581%2595%25e3%2582%258c%25e3%2582%258b%25e5%25ae%2589%25e5%2585%25a8%25e3%2583%25bb%25e5%25ae%2589%25e5%25bf%2583%25e3%2581%25aa%25e6%25b6%2588 /magazine/archives/6729#respond Thu, 16 Mar 2023 05:21:27 +0000 /magazine/?p=6729 サンノプコ㈱ 基盤製品研究部 ユニットチーフ 松村 陽平 [お問い合わせ先] サンノプコ㈱ スペシャリティ産業部   PDFファイル 衣類・食品包装紙・ゴム手袋など、人体や食品に接触する製品には高い安全性や信頼…

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サンノプコ㈱ 基盤製品研究部

ユニットチーフ 松村 陽平

[お問い合わせ先]
サンノプコ㈱ スペシャリティ産業部

 

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衣類・食品包装紙・ゴム手袋など、人体や食品に接触する製品には高い安全性や信頼性が求められる。このような用途においては、従来アメリカ食品医薬品局(FDA)に代表される各国機関によって安全性が承認された製品が使用されてきたが、近年の安全・安心に対する意識の高まりを受け、国や分野によっては一段と高い要求が課されるようになってきた。また一方で、産業のグローバル化が進んだことにより、例えば日本で製造した製品が世界中に輸出されるケースや、同一製品を海外で現地生産するようなケースが見られるようになり、幅広い国、用途で安全に使用できる製品に対するニーズが高まってきている。

サンノプコは50年以上にわたって産業用消泡剤の開発を行っており、幅広い産業に消泡剤を提供しているが、近年では上述のような社会的なニーズの高まりに応えて、消泡剤としての機能のみならず、用途を問わず安全・安心に使用可能(=ユニバーサル)な消泡剤の開発に取り組んでいる。本稿では、消泡剤の概要について述べた後、このような「ユニバーサル消泡剤」の取り組みのなかから、食品接触材料用消泡剤『ノプタム 1790』について紹介する。

 

製造工程における泡

泡は液体の膜に囲まれた気体である。水であれば泡立てても液面に達した瞬間に破裂するが、水溶性樹脂や界面活性剤、種々の分散質などが存在すると、これらが気液界面に配列することで泡膜が安定化し、破裂しにくい安定な泡となる。

安定な泡は洗剤、シャンプー、ビールなどに代表されるように、生活に役立つ面も多い。一方で製造現場などでは、泡は製品の品質に悪影響を及ぼし、生産の効率を低下させるトラブルメーカーとなる場合もある。泡によるトラブルには、例えば、タンク・装置からのオーバーフロー、塗膜欠陥の発生などがあり(写真1、2)、このような泡によるトラブルを防止するために、消泡剤は幅広い産業で使用されている。

 

消泡剤の作用機構

消泡剤は、鉱物油、シリコーンオイルなど、疎水性で低表面張力の液体を主成分としており、これらが適切な粒子径で発泡液中に分散することで、消泡効果を発揮する。発泡液中に分散した消泡剤粒子は、疎水性が高いため気液界面を好む性質があり、図1のように気泡と外気相とを隔てる液膜(泡膜)に入り込みやすい。

泡膜中に消泡剤粒子が存在することが、消泡効果を発揮するための第一ステップとなる。

図2は図1の泡膜部を拡大したイメージ図である。このように泡膜の厚みが消泡剤の粒子サイズに近くなると、消泡剤は疎水性が高い(=水よりも空気を好む)ため、泡膜を貫通して図3のような構造を形成する。消泡剤が泡膜を貫通すると、その部分は周囲と比べて局所的に表面張力が低い状態となる(泡膜の強度が低下する)ため、泡膜が収縮する力に引っ張り負けて消泡剤部分が急激に拡張し、破泡に至る。(図4、5)

 

以上の作用機構から、消泡剤は以下の要件を満たす必要がある。

≪消泡剤の必要条件≫
①適切な粒子径で発泡液中に分散すること(溶解してはいけない)。
②発泡液と比較して十分に表面張力が小さいこと。

 

消泡効果の副作用-ハジキトラブル

このようにして消泡剤は泡を消す機能を発揮するが、消泡剤によって最終製品の性能を損なわないことも重要である。例えば、消泡機能をもたらす消泡剤の局所的な拡張が、塗料、コーティング材などの仕上がり塗膜で起こると、ハジキと呼ばれる塗膜不良となる。ハジキは消泡剤の分散粒子径が必要以上に大きい場合に生じるトラブルである(図6)。

 

一方で消泡剤の分散粒子径が小さすぎる場合、泡膜を貫通することが難しくなり、消泡効果を発揮できないため、両者のバランスを満足させるためには、消泡剤の必要条件①で述べた「適切な粒子径」で分散させることが極めて重要である。

低表面張力の液体成分(消泡成分)を適切な粒子径で分散させるため、消泡剤には核剤と呼ばれる固体成分を使用することが多い。用途・条件・使用物質の制限などに応じて、多様な核剤と消泡成分を組み合わせた消泡剤が用いられている(図7)。

 

食品接触材料の脱プラスチック化と規制

近年、使い捨てプラスチックの利用を削減する取り組みが世界的に広まっており、飲料カップやストロー、食品包装袋(写真3)など、従来プラスチックを使用していたところに、機能性コーティングを施した紙を活用して脱プラスチックを図る動きがある。

 

このようなコーティング材には非常に高い機能が求められる。例えば食品包装紙の場合、食品に接触しても健康を害さない高い安全性に加え、匂いや酸素、水分をバリアし、中の食品の風味・品質を維持する機能が必要となってくる。

しかし、仕上がったコーティング材に泡による塗膜欠陥や、その泡を消すために加えた消泡剤によるハジキがあるとせっかくのバリア性も意味をなさない。そのため、消泡性と低ハジキ性を両立させ、さらに安全性にも配慮された高品質な消泡剤は、このようなコーティング材を設計するために欠かせない材料の一つである。

食品接触材料に関しては、消費者の安全を確保するため世界各国で種々の規制があり、使用できる物質はこれらの制限を受ける。米国ではアメリカ食品医薬品局(FDA)が古くからポジティブリスト方式(使用可能な物質をリスト化する方式)による管理規則を運用しており、この分野でのスタンダードとなっているが、近年、日本、中国、EUなどでも相次いでポジティブリストによる管理規則が成立しており、グローバルにビジネスを展開するに当たって、これらの法規に幅広く対応した製品が求められるようになっている。

 

サンノプコの食品接触材料向け消泡剤

サンノプコは、古くから紙コーティング用消泡剤の技術開発に取り組んでおり、長年培ってきた技術を生かして、これらの食品接触材料関連法規に幅広く対応した消泡剤として『ノプタム 1790』を開発した。

『ノプタム 1790』は安全性が広く認められている原料のみを使用し、米国FDA規制のみならず、日本、中国、EUの法規にも対応した消泡剤である(表1)。

 

また『ノプタム 1790』は、近年安全性への懸念が生じている多環芳香族炭化水素(PAHs)についても含有量を極力低減している。多環芳香族炭化水素(PAHs)とは、二つ以上の芳香環が結合した有機化合物のことで、微量ながら食品にも含まれる成分ではあるが、国際がん研究機関(IARC)から、PAHsの多くに発がん性や遺伝毒性があることが指摘されており1)、人体に摂取される、または人体に接する物品について、PAHsを低減する規制や基準づくりが進んでいる2)。『ノプタム 1790』はPAHs含有量が極めて少なく安全性の高い原料を使用するなど、このPAHsにも配慮した設計となっている。

 

今後の展開

今後も安全・安心を求める動きはさらに多くの業界・国・地域に広まっていくと考えられる。また、近年では、安全性のみならず、サステナブル・エシカルな原料の活用、環境放出された場合に速やかに分解する生分解性など、社会的ニーズもますます多様化している。

サンノプコは変革していく社会的ニーズに応え、より多くの人が、より広い地域/用途で安心して使うことができる「ユニバーサル消泡剤」の開発を今後も進め、人々の健康、環境保護に貢献していく。

 

参考文献
1)国際がん研究機関(IARC):Agents Classified by the IARC Monographs
http://monographs.iarc.fr/ENG/Classification/index.php
2)食品安全委員会ファクトシート
https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/f05_pahs.pdf

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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高熱伝導性と低粘度を両立したウレタン放熱ギャップフィラー /magazine/archives/6157?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e9%25ab%2598%25e7%2586%25b1%25e4%25bc%259d%25e5%25b0%258e%25e6%2580%25a7%25e3%2581%25a8%25e4%25bd%258e%25e7%25b2%2598%25e5%25ba%25a6%25e3%2582%2592%25e4%25b8%25a1%25e7%25ab%258b%25e3%2581%2597%25e3%2581%259f%25e3%2582%25a6%25e3%2583%25ac%25e3%2582%25bf%25e3%2583%25b3%25e6%2594%25be%25e7%2586%25b1%25e3%2582%25ae%25e3%2583%25a3 /magazine/archives/6157#respond Mon, 23 Jan 2023 04:44:42 +0000 /magazine/?p=6157 ウレタン材料事業本部 研究部 ウレタン材料研究グループ ユニットチーフ 能勢 謙太 [お問い合わせ先] ウレタン材料事業本部 営業部   PDFファイル   近年、スマートフォンの普及やクラウドサービ…

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ウレタン材料事業本部 研究部 ウレタン材料研究グループ

ユニットチーフ 能勢 謙太

[お問い合わせ先]
ウレタン材料事業本部 営業部

 

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近年、スマートフォンの普及やクラウドサービスの普及、IoTや自動運転化など世界的な通信量の増大に対応する第5世代移動通信システム「5G」への移行が進められている。それに伴い、電子機器の高性能化、高機能化が進み、処理速度が増大し、各種デバイスや電子部品から発生する熱量が増加している。一方で、電子機器の小型化、高密度実装が進み、放熱面積や放熱経路が縮小するなど、冷却条件は厳しくなっている。電子機器の誤作動や損傷を防ぎ、品質や信頼性を向上するために、電子機器にはこれまで以上に高度な熱対策が求められている。

その対策の一つとして、電子部品(発熱体)と放熱部品(ヒートシンク)の間で使用される熱伝導性材料(Thermal Interface Material:以降TIMと略す)の高性能化が進められている。

本稿では、TIMの一つである放熱ギャップフィラーについて、当社の開発品を紹介する。

 

TIMの種類および拡大する市場規模 1)

TIMの種類として、塗布時は液状で後から硬化する「放熱ギャップフィラー」、液状のままの「放熱グリース」、シート状の「放熱シート」などがある。表1にこれらの性能比較を示すが、発熱量、発熱部と放熱部の距離、形状、リワーク性や接着性の必要性、作業性への要求などの条件によってどの種類を用いるか選択される。放熱ギャップフィラーは、放熱シートに対して、自動実装を適用しやすい、端材が出ない、密着性や追従性に優れ、接触熱抵抗が低いといった利点がある。一方、放熱グリースに対しては、耐ポンプアウト性や耐ブリードアウト性、耐振動性に優れるといった利点がある。現在TIMの市場規模は放熱シート、放熱ギャップフィラー、放熱グリースの順となっているが、電気自動車用途をはじめとした車載電子機器へのTIMの自動実装ニーズが高まっていることから、放熱ギャップフィラーの需要が今後大きく拡大していく見通しとなっている。

 

TIMの放熱効果の重要因子である接触熱抵抗

従来、TIM材料自体の熱伝導率に関しては放熱シートが一番有利となっている。それに対し放熱ギャップフィラー、放熱グリースは流動性を確保するために熱伝導性フィラーの充塡率を高めにくく、放熱シートに比べて熱伝導率が劣る傾向にあった。

一方放熱ギャップフィラーや放熱グリースの利点として、塗布時に液状のため被着界面に密着して界面での接触熱抵抗が低くなり、高い放熱効果が期待できる点が挙げられる。図1で放熱ギャップフィラーを例に基板界面の接触熱抵抗について説明する。基板や金属の平滑面は実際にはミクロな凹凸が存在し、これらを互いに密着させた場合、ミクロ的には点接触で、微細な凹凸に空気が存在するため接触熱抵抗となる。発熱体とヒートシンクの間に放熱ギャップフィラーを挿入した場合、このような表面凹凸への追従しやすさが接触熱抵抗へ影響する。放熱特性を考慮するうえで接触熱抵抗は材料の熱伝導率と合わせて重要な因子となっている。

 

当社ウレタン放熱ギャップフィラーの特徴

当社は、よりよい熱管理ソリューションを提供すべく、放熱ギャップフィラーの利点を維持したまま、従来の課題であった「熱伝導性」と「流動性」の両立を達成できる材料の設計・開発を行った。本開発品は熱伝導性フィラーを含有するポリオール液とポリイソシアネート液の2液を混合する形態のウレタン放熱ギャップフィラーである。写真1のように混合直後はペースト状の液体で、室温で硬化し、任意の形状に成形することが可能である。これまで、熱伝導性を高くするために熱伝導性フィラーの量を多くすると放熱ギャップフィラーの粘度が高くなり、流動性が悪くなってしまうという課題があった。粘度が高いと、発熱体やヒートシンク表面の凹凸に追従できず、接触熱抵抗も高くなるなど、高熱伝導性と高流動性(低粘度)を両立することは困難だった。今回、当社は独自の界面制御技術により熱伝導性フィラーの濡れ性を高め、低粘度で高い流動性を保ったまま樹脂中に高濃度で熱伝導性フィラーを含有することに成功した。図2に一般的なギャップフィラー製品の熱伝導率および粘度の相関を示す。前述の通り、熱伝導率が高くなるにつれ液の混合粘度も高くなる傾向にあることがわかる。当社が今回開発したウレタン放熱ギャップフィラーは、従来の市販品に比べて熱伝導率と粘度のバランスに優れている(当社調べ)。そのため、本開発品はギャップフィラーの塗布性がよく、放熱材料実装の自動化に対応できるとともに、生産の効率化に貢献できる。また塗布後に材料を圧縮した際に電子部品とヒートシンクのたわみによる応力が軽減可能となる。

 

 

また本開発品はウレタン系であり非シリコーン設計としているため、電子機器においてシリコーン系で問題とされる低分子シロキサン成分揮発による導通不良の心配がない。さらにウレタンの柔軟性により振動で剥がれにくいといった特長をもつこと、および絶縁タイプのフィラーを用いていることなどから、さまざまな電子機器や車載用途などへも適用可能である。

 

当社開発品の熱伝導性フィラー分散機構について

今回、高熱伝導性と低粘度を両立させることができたキーポイントは、当社界面制御技術を用いた熱伝導性フィラーの高濃度分散である。図3の模式図に示すように、分散剤がない状態では熱伝導性フィラーが凝集してしまい、微細な空気を粒子間に含んでいる状態となっている。ここに当社独自の分散剤を添加することで、熱伝導性フィラー表面に対して分散剤が吸着し、分散媒に対する濡れ性が向上する。これによって効果的に空気が抜け熱伝導性フィラーを分散媒に高充塡しても、凝集体を作ることなく、きれいなペースト状の製品を得ることができる。

 

当社開発品の放熱特性

当社開発品の放熱効果を検証した。実験方法として図4に示すように銅板で放熱材料を挟み、加熱したポリプロピレン(PP)板を載せてサーモカメラでPP板表面の温度変化を観察した。その結果を図5に示す。結果から明らかなように、本開発品は放熱材を挟まない場合(スペーサーのみ)や、他社の同程度の熱伝導率を持つシリコーン放熱シートに比べて、加熱したPP板の温度の低下が早く効率よく熱を逃がすことができていることが分かる。この理由として、本開発品は硬化前が液状で基板表面の微細な凹凸へ追従し接触熱抵抗を低減させるため、同程度の熱伝導率を有する放熱シートに対し、放熱効果に差が出ていると考えられる。

このような優れた放熱特性および自動実装ニーズに応えられるといった本開発品の特長を生かし、実用化に向けた検討を進めていく。

 

 

当社開発品のラインアップ

現在当社が開発中のウレタン放熱ギャップフィラーのラインアップを表2に示す。

高熱伝導性を示す一般グレードに加え、当社のウレタン設計技術を生かし、一般的に密着させるのが難しい非極性のPP基材に密着性を示すグレードも開発中である。一般にシリコーン系ギャップフィラー製品は基材への密着性が低いが、密着性を自由にコントロールし、さまざまな基材へ密着性を付与できることは当社ウレタン設計技術の強みといえる。またレオロジーコントロール技術により、高チクソ性を付与して、液だれやポンプアウトしにくいグレードもラインアップしている。

 

今後の予定

今後、IoT化が進むなか、車載、電源・エネルギー、通信モジュールなどさまざまな電子機器の小型化、高性能化、高機能化が進み、これらの熱対策に対する要求性能もますます高まっている。当社はこれらのニーズに応える熱管理ソリューションとして、ウレタン放熱ギャップフィラーの実用化を目指すとともに、長年培った界面制御技術やウレタン設計技術を生かして、今後もさまざまなニーズに合わせた高品質な製品を開発していく。

 

参考文献
1)「2019年 熱制御・放熱部材市場の現状と新用途展開」株式会社富士経済

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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