地球科学でひもとく気になる話題 – SANYO CHEMICAL MAGAZINE /magazine Fri, 11 Oct 2024 05:45:12 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.4.5 /magazine/wp/wp-content/uploads/2020/09/cropped-sanyo_fav-32x32.png 地球科学でひもとく気になる話題 – SANYO CHEMICAL MAGAZINE /magazine 32 32 [vol.2] 火山による災害と恩恵 /magazine/archives/8372?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=vol-2-%25e7%2581%25ab%25e5%25b1%25b1%25e3%2581%25ab%25e3%2582%2588%25e3%2582%258b%25e7%2581%25bd%25e5%25ae%25b3%25e3%2581%25a8%25e6%2581%25a9%25e6%2581%25b5 /magazine/archives/8372#respond Fri, 11 Oct 2024 05:10:48 +0000 /magazine/?p=8372 鎌田 浩毅 PDFファイル さまざまな活動周期を持つ日本の活火山 日本は世界で有数の火山国です。狭い国土に世界中の1割を占める火山があるのが日本列島なのです。これから噴火する可能性のある火山は活火山かつかざんと呼ばれ「過…

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さまざまな活動周期を持つ日本の活火山

日本は世界で有数の火山国です。狭い国土に世界中の1割を占める火山があるのが日本列島なのです。これから噴火する可能性のある火山は活火山かつかざんと呼ばれ「過去1万年前以降に噴火した火山」が111山選ばれています。活火山が定義された時間の「1万年前」とは、途方もなく大昔と思われるかもしれませんが、ちょうど人類が農耕を始めた頃のことです。火山の活動周期は、数十年から数千年単位と山ごとに異なります。よって、1万年くらいは見ておかないと、近い将来噴火する火山を見落とす恐れがあるのです。

かつての教科書で、火山は「活火山」「休火山」「死火山」の三つに分けられていました。その後、火山学者は「休火山」と「死火山」の名称を使うのをやめました。というのは、これまで休火山と思っていた山も、活動周期が長いだけで火山学的に見ればすべて活火山と考えたほうが良いからです。ちなみに、2011年の東日本大震災以降、111山のうち20の活火山においてマグマだまりの周囲で地震が起こり始めて「噴火スタンバイ状態」になっています。また、死火山という言葉についても似たような問題がありました。「将来決して噴火しない」という確実な証拠をあげることが、不可能に近いからです。

富士山を例に見てみましょう。富士山の一番最近の噴火は江戸時代の1707年です。南東斜面にある宝永ほうえい火口から大噴火したのですが、その後300年もの間富士山は噴火をしていません。人間の生活感覚では約10世代にわたる長い期間を休んでいたのです。ところが、10万年にもおよぶ富士山の長い寿命からすれば、300年間はまばたきする程度の短い休止期に過ぎません。

こうした状況から、休火山と死火山という言葉は使わなくなりました。旧来の休火山の全てと死火山の一部は、活火山と捉えたほうが良いからです。現在、火山の専門家は、「活火山」と「そうでない火山」という二つに分けています。そして、近々噴火の可能性のある活火山にだけ注意を向けてもらうように啓発活動をしています。

 

「災いは短く、恵みは長い」火山からのメッセージ

美しい富士山に開いた宝永火口。筆者撮影

火山はいったん噴火が起これば厄介なものですが、災害を起こすだけではありません。噴火をしばらく休んでいる時の火山には数多くの魅力があります。火山の作った地形には美しいものが多く、何と日本の国立公園の9割は火山地域なのです。火山は噴火中を除いて、恵みややしをもたらしてくれます。風光明媚めいびな土地を生み出し、そこには温泉もきます。さらに、広い火山の裾野は果樹の栽培に適しています。例えば、ローマ人がワイン用のブドウを栽培し始めた場所は、イタリア・ナポリに近いヴェスヴィオ火山のふもとでした。

日本人は長年こうした火山の恩恵を受けてきました。溶岩流の美しい風景は大切な観光資源となっています。火山の麓で湧き出た清流はおいしいミネラルウォーターとなり、火山灰は野菜栽培に適した水はけの良い土壌を作ります。これらの恵みは、噴火と噴火の間に私たちが享受できる「火山の贈り物」といっても良いでしょう。つまり災害の一時期を過ごした後、再び長期間の恩恵を受けることができます。「災いは短く、恵みは長い」。これが火山からの大事なメッセージです。短い期間に起きる災害は、火山学という科学を用いて避けることができます。噴火予知に成功すれば、その後には長い恵みが来るのです。災害から我が身を守るための地球科学がとても大事であることがわかっていただけると思います。

日本の火山学研究は世界でもトップレベルにあります。火山の美しさと科学の両方に注目していただければ幸いです。

 

鎌田 浩毅〈かまた ひろき〉

1955年東京都生まれ。京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授・龍谷大学客員教授。専門は、地球科学・火山学・科学コミュニケーション。東京大学理学部地学科卒業、理学博士(東京大学論文博士)。京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て現職。著書に『知っておきたい地球科学』『M9地震に備えよ 南海トラフ・北海道・九州』などがある。

 

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私は京都大学で24年間地球科学の教授を務め、定年後も全国を飛び回って火山の研究をしています。今回は地下で起こっているダイナミックな現象を紹介しましょう。

火山が噴火する仕組み

日本には富士山など美しい火山がたくさんあります。火山は時折真っ赤なマグマを噴き出しますが、どのようなメカニズムで噴火するのでしょうか?

噴火とは地下のマグマが溶岩として地上に出たり、火山灰となって降り注いだりする現象です。マグマとは岩石が溶けたもので、地殻の下にあるマントルという部分から徐々に地上まで上がってきます。こうした活動が繰り返されることで富士山のように巨大な火山がつくられました。火山の地下の構造について説明します。地下約20キロメートルに「マグマだまり」があります。摂氏1000℃もの高温で液体のマグマがぎゅうぎゅうに詰まっている場所です。ここから、次に挙げる三つの仕組みで噴火が起こります。

一つ目は、圧力がかかって絞り出されるケースです(図ア)。巨大地震が起こった際にはマグマだまりに外から力がかかり、絞り出されるように地表に噴出します。このマグマが通った道を「火道かどう」といい、地上に出たところを「火口」と呼びます。噴火のたびにマグマは既に塞がっている火道をこじ開けます。火道から火口へという経路で、噴火は何十万年もの間に何度も繰り返されるのです。

噴火モデルの二つ目は、新たにマグマが注ぎ足されるケースです(図イ)。うなぎ屋の秘伝のタレではありませんが、古いマグマに新たなマグマが地下数十キロメートルの深部から絶えず注ぎ足されます。これは休止中の火山でも絶えず起こっている現象です。実は、マグマだまりの大きさには限界があるので、注ぎ足し続けられると圧力が上がります。その結果、マグマは圧力の低い所を求めて火道を上昇し、最後に火口から噴火します。

 

「泡立ち現象」で火山が噴火する⁉

三つ目は、外圧など外からの力を受けていないのに、マグマだまりのマグマが「自ら上昇して」噴火するケースです(図ウ)。マグマの中には水分が5%ほど溶け込んでいます。1000℃ もある高温のマグマに水分が含まれるというのは想像しにくいかもしれませんが、実は高温のマグマの20分の1は水なのです。といっても普通の水ではありません。高温・高圧という環境の中で、水の三態(すなわち固体の氷、液体の水、気体の水蒸気)とは違う特性を持った水です。化学で説明すると、水素と酸素が電離した状態でイオン化した水が、マグマの中にしっかり存在しているのです。ところが、地震などによってマグマだまりが揺すられると、このイオン化した水が泡立ち、水蒸気となります。通常、水が水蒸気になると体積は1000倍以上に膨らむので、マグマの体積も当然膨張します。その結果、マグマだまりの圧力が上がって噴火に至ります。三つ目のモデルはこの「泡立ち現象」によって起こる噴火で、マグマが噴火する時にだけ見られます。

こうした仕組みは20世紀になって火山学が進展して初めてわかりました。まさに地球内部で起こっているダイナミックで不思議な現象です。次回は、そうした火山が美しい景観や温泉などの「恵み」を与えてくれるお話をしましょう。

 

鎌田 浩毅〈かまた ひろき〉

1955年東京都生まれ。京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授・龍谷大学客員教授。専門は、地球科学・火山学・科学コミュニケーション。東京大学理学部地学科卒業、理学博士(東京大学論文博士)。京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て現職。著書に『知っておきたい地球科学』『首都直下 南海トラフ地震に備えよ』などがある。

 

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