きのこの森から – SANYO CHEMICAL MAGAZINE /magazine Thu, 31 Aug 2023 03:24:43 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.4.5 /magazine/wp/wp-content/uploads/2020/09/cropped-sanyo_fav-32x32.png きのこの森から – SANYO CHEMICAL MAGAZINE /magazine 32 32 [最終回] 隠花植物の楽園倒木上に広がるきのこの森 /magazine/archives/2357?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e9%259a%25a0%25e8%258a%25b1%25e6%25a4%258d%25e7%2589%25a9%25e3%2581%25ae%25e6%25a5%25bd%25e5%259c%2592%25e5%2580%2592%25e6%259c%25a8%25e4%25b8%258a%25e3%2581%25ab%25e5%25ba%2583%25e3%2581%258c%25e3%2582%258b%25e3%2581%258d%25e3%2581%25ae%25e3%2581%2593%25e3%2581%25ae%25e6%25a3%25ae /magazine/archives/2357#respond Fri, 13 Mar 2020 05:36:44 +0000 /magazine/?p=2357 PDFファイル   森の宝物・倒木 人の手があまり加えられていない、いわゆる天然林(自然林)や、原生林などへ行くと、必ず目に入るものがある。 倒木である。 なんだつまらない、と思う人がいるかもしれないが、森では…

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この写真には6種類のきのこが写っていますが、わかりますか?

 

森の宝物・倒木

人の手があまり加えられていない、いわゆる天然林(自然林)や、原生林などへ行くと、必ず目に入るものがある。

倒木である。

なんだつまらない、と思う人がいるかもしれないが、森では、暴風で倒れたり、「傷口」から侵入した各種細菌や菌類などに寄生されたりして、命を落とす樹木は少なくない。人間が管理している里山や雑木林や公園などで樹木が倒れたら、すぐに廃棄物扱いとなり、あっという間に片付けられてしまうに違いないが、自然の森であれば、なかなかそうはいかない。倒木は、ほかの動植物の命の糧となりながら、徐々にその体積を減らしつつ、何十年、何百年もの長きにわたって、森の底に存在し続ける。

森で、倒木とじっくり対峙したことがある人であれば(おそらくそれほど多くないと思われる)、ぼくがこれから述べる倒木の魅力について、きっと首肯してくれるに違いない。ぼくは、倒木のことを、廃棄物どころか、森の宝物だとさえ思っている。なんせ、小動物や昆虫をはじめ、わが愛する、きのこや粘菌やコケや地衣類(菌類と藻類の共生体)など、いわゆる隠花植物の格好のすみかであり、食料なのだから。

この地球上では、ほんの一部の微生物を除いて、無機物から有機物を作り出せるのは植物だけだ。つまり、地球で生きている全ての動物は、植物が作り出したエネルギーの恩恵を受けて生きている。そして、植物は、死してなお、動物や菌類などなど、いろいろな生物が生きる糧となる。そう、我々は、常に植物に生かされていると言っても過言ではない。

 

きのこが生え、コケが覆う、広葉樹の倒木

 

きのこが好きな食物

きのこを見るにはどこへ行けばいいですか、とよく聞かれるのだが、答えは簡単だ。どこでも!

その昔、きのこは植物の仲間だと考えられていたが(今もそう思っている人がけっこう多い)、現在では、きのこは菌類で、植物よりは動物に近い生き物であることがわかっている。きのこは植物ではないので光合成ができず、生きていくためには、外部から栄養を摂取、つまりは、何かを「食べる」必要がある。

きのこは、何を栄養としているかで、「腐生菌(生物遺骸などから栄養を摂取)」「寄生菌(動植物や菌類などほかの生物から栄養を摂取)」「共生菌=菌根菌(樹木と互いに栄養交換をする)」と、大きく3つに分けることができる。つまり、身の回りにある有機物の多くはきのこの食料となり、きのこはそんな食料のある場所から発生する。そして、きのこ=木の子、という名前からして、樹木との関係性は特に深い。

例えば、倒木は、きのこの大好物だ。植物はいわゆる難分解性物質(リグニンなど)を持っているが、自然界でそれを分解できるのは、きのこなど菌類だけ。だから、きのこを見たい人は、まず、倒木を探してじっくり見てみるといい。同じ一本の倒木でも、倒れてからの年月や状況、あるいは、季節によって、発生するきのこは異なっている。倒れたばかりの真新しい倒木を好むきのこがいれば、腐食が進んだ倒木を好むきのこもいる。春に発生するきのこがいれば、秋に発生するきのこもいる。

森を見ず、倒木ばかり見ていることもしばしば

鑑賞する楽しみ

ぼくは、初夏から晩秋にかけてほとんど毎日、生き生きとしたきのこや粘菌の姿を撮影すべく、阿寒の森に入る暮らしを長く続けているが、飽きることがないどころか、ますます森に魅了されている。この先何年かして、足腰が弱って、縦横無尽に森を歩けなくなったとしても、それに代わる楽しみがすでにある。そう、倒木鑑賞だ。それを見越しているわけではないが、広大な阿寒の森のあちこちに、週に一度は必ず訪れて鑑賞・観察している「マイ倒木」が何本もある。

阿寒の夏を彩るタモギタケは優秀な食菌

倒木の表面を端から端までなめるように目を近付けて観察すると、世界が一変する。それまで気付かなかった、小さなきのこが目に入る。歩き回る小さな昆虫もかわいい。緑一色に見えていた、コケや地衣類にいろいろな種類があることに気付く。拡大率10倍ほどのルーペで見ると、その造形の美しさや精緻さに言葉を失うこと間違いなし。気が付けば、何時間も同じ倒木の前で過ごしている。

次々にいろいろなきのこが発生して、常にぼくを楽しませてくれた、直径1メートル近くもある巨大なカツラの倒木は、今やもう、地面との見分けがつかなくなるほどに、ほとんどぺしゃんこになった。かれこれ20年の付き合いだ。そうなると、倒木でありながら、地面から発生するきのこ(主に菌根菌)が生えてきたりする。

倒木を見ることは、命の移ろいを見ることでもあり、本当に興味が尽きない。

人に言われて気付いたのだが、ぼくは、いまだに、きのこや粘菌を見つけるたびに「あ!」とか「おお!」とか声を出しているらしい。条件反射だ。うれしいのだ。「永遠に幸福でいたかったら、釣りを覚えなさい」という中国の古いことわざがあるが、それに対して、ぼくは、「永遠に幸せでいたかったら、きのこを覚えなさい」と言いたい。人生に必要なものは、きのこが教えてくれる。

 

文・写真=きのこ写真家  新井 文彦〈あらい ふみひこ〉

1965年群馬県生まれ。きのこ写真家。北海道の阿寒湖周辺、東北地方の白神山地や八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌(変形菌)など、いわゆる隠花植物の撮影をしている。著書に『きのこの話』『きのこのき』『粘菌生活のススメ』『森のきのこ、きのこの森』『もりのほうせきねんきん』など。書籍、雑誌、WEBなどにも写真提供多数。

きのこには、食べると中毒事故を引き起こすものもあります。実際に食べられるかどうか判断する場合には、必ず専門家にご相談ください。

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[vol.11] 広大な樹海と無数の沢 阿寒湖南部のきのこの森 /magazine/archives/1750?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e5%25ba%2583%25e5%25a4%25a7%25e3%2581%25aa%25e6%25a8%25b9%25e6%25b5%25b7%25e3%2581%25a8%25e7%2584%25a1%25e6%2595%25b0%25e3%2581%25ae%25e6%25b2%25a2%25e3%2580%2580%25e9%2598%25bf%25e5%25af%2592%25e6%25b9%2596%25e5%258d%2597%25e9%2583%25a8%25e3%2581%25ae%25e3%2581%258d%25e3%2581%25ae%25e3%2581%2593%25e3%2581%25ae%25e6%25a3%25ae /magazine/archives/1750#respond Mon, 20 Jan 2020 07:27:13 +0000 /magazine/?p=1750 PDFファイル   広大な樹海 日本百名山に選ばれている雌阿寒岳の頂上に立ち、北に目を向けると、砂礫の中にぽっかり空いた大きな穴からもくもくと上がる噴煙越しに、北海道の形にも似た、阿寒湖の全景を見ることができる…

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アミヒラタケはときに直径40cmにもなる大形のきのこ

 

広大な樹海

日本百名山に選ばれている雌阿寒岳の頂上に立ち、北に目を向けると、砂礫の中にぽっかり空いた大きな穴からもくもくと上がる噴煙越しに、北海道の形にも似た、阿寒湖の全景を見ることができる。どっしりと大きな雄阿寒岳の裾野に広がる青い湖面に、大小4つの島が浮かび、南岸には温泉街のホテルが並んでいる。阿寒湖の周囲には、緑、緑、緑の木々。大げさではなく、見渡す限りの樹海が広がっている。雌阿寒岳の山頂をはじめ、阿寒湖南部にある国設阿寒湖畔スキー場の展望台、その奥の白湯山の展望台など、阿寒湖を見下ろすポイントはいくつかあるのだが、いずれも、高所から阿寒湖を眺めているうちに、湖そのものではなく、その周囲に広がる樹海に目を奪われることになる。

ちなみに、阿寒湖のすぐ脇にそびえる雄阿寒岳の頂上からは、阿寒湖を眺めることはできない(八合目前後で見下ろせる)。阿寒湖畔の温泉街付近か
ら見える雄阿寒岳の「山頂」は、実は、九合目なのだ。

 

ベニカノアシタケとクリンソウ

幾筋もの沢

雌阿寒岳の登山口といえば、オンネトー近くの雌阿寒温泉が一般的だが、阿寒湖側にもある。登山口までのアプローチがあまり良くないこと(ダートの林道を約6キロメートル走行)、緩やかではあるが山頂までの距離が長いことなどで、利用する人は多くない。しかし、このダートの林道は、阿寒湖南部に広がる樹海を探る数少ないアプローチの一つであり、車の走行が少ないことは、きのこや粘菌との出会いを求める人間にとっては、非常にありがたい。

林道に並行して流れる小さな川がある。国土地理院の地図などでは「ウグイ川」と表記されているが、地元では、昔から硫黄山川と呼ばれているので、ここではそれに倣うことにする。その、硫黄山川と、硫黄山川に流れ込む無数の名もなき小さな沢(夏になれば多くが枯れてしまう)は、命を支える血管のように、樹海の隅々まで行き渡っている。沢筋には地も多く、常に適度に湿度が担保されており、きのこや粘菌を探すのにうってつけだ。歩きやすいのは動物も同じで、エゾシカやキタキツネやヒグマなどの姿も多く見かける。したがって、鈴などの鳴り物や撃退スプレーの持参など、ヒグマ対策は必須だ(地元のヒグマ出没情報も要チェック!)。

 

極小だが存在感抜群のロクショウグサレキン

樹海と昆虫

阿寒湖南部に広がる樹海は、針葉樹と広葉樹が混在して生えている針広混交林である。樹種としては、トドマツとダケカンバが多く見られ、針葉樹は他にアカエゾマツ、イチイなど、広葉樹はミズナラ、カツラ、イタヤカエデなどもたくさん生えている。もちろん、生きた木から倒木までそろっているので、どこもかしこもきのこ天国である。以前、昆虫から発生するきのこ、いわゆる冬虫夏草の専門家に聞いたところによると、沢筋のゆるやかな傾斜地では、冬虫夏草を見つける確率が高いのだとか。確かに、例年、アブの仲間のサナギから発生するサナギタケを、阿寒の他の場所に比べて、多く見ることができる。地面や朽木から、小さいながらも鮮やかなオレンジ色のきのこが顔を出すので、目につきやすいのだ。昆虫といえば、森を流れる沢筋では、ヤブカ、ヌカカ、ブユなどの吸血昆虫が多い。発症すれば死に至ることもある感染症を媒介するマダニもけっこう多い。気温が高いからといって肌を露出していると、ひどい目に遭うこと間違いなしだ。ぼくは人よりも暑がりで汗っかきだが、それでも、森へ入る時には、上下ともにレインウエアを着込む。汗は街に戻って温泉で流せばなんてことはないが、虫刺されは厄介だ。特にヌカカはあまりに小さく、刺されても気付かないほどだが、いざ刺されると、皮膚が赤く腫れ上がり、熱を持ち、痛がゆさが2〜3日は続く。防虫スプレーに、蚊取り線香など、いろいろな防虫対策を試したが、最大の効果を期待するなら、結局、肌を露出しないことに尽きる。撮影時には頭から防虫ネットをかぶる。

 

その名の通り爽やかな香りがするホシアンズタケ

 

全てが森の必需品

森へ入って、大挙して虫に襲われ、刺されるたびに、呪詛の言葉を吐き、全ての吸血昆虫の根絶を願うが、もちろん、本気で吸血昆虫の絶滅を期待しているわけではない。我々きのこファンは、森のあちこちに横倒しになっている倒木が、きのこや粘菌やコケなどにとって、どれほど重要なものなのかよく知っている。落葉も、動物の糞や死骸も、森には不必要なものなど一つもない。吸血昆虫にしても同じこと。人間にとっては不快だが、生き血をすする彼女らがいなくなれば、遠くない未来に、森が想像を超えて変容してしまうだろうことは想像に難くない。生きた木も、枯れた木も、落葉も、昆虫も、動物の糞も、何もかもが、森の必需品であり、さらには、生き物としてのきのこの好物でもある。好物があるから、そこにきのこがいるのだ。我々人間は、古くから自然を観察することで、知の体系をつくってきた。きのこ観察、きのこ鑑賞から、得られるものは無限にある。

若人よ、スマホを捨てて、森へ行こう。

 

新井 文彦〈あらい ふみひこ〉

1965年群馬県生まれ。きのこ写真家。北海道の阿寒湖周辺、東北地方の白神山地や八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌(変形菌)など、いわゆる隠花植物の撮影をしている。著書に『きのこの話』『きのこのき』『粘菌生活のススメ』『森のきのこ、きのこの森』『もりの ほうせき ねんきん』など。書籍、雑誌、WEBなどにも写真提供多数。

 

きのこには、食べると中毒事故を引き起こすものもあります。実際に食べられるかどうか判断する場合には、必ず専門家にご相談ください。

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[vol.10] 森と湖沼が織りなす自然 阿寒湖周辺のきのこの森 /magazine/archives/1767?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e6%25a3%25ae%25e3%2581%25a8%25e6%25b9%2596%25e6%25b2%25bc%25e3%2581%258c%25e7%25b9%2594%25e3%2582%258a%25e3%2581%25aa%25e3%2581%2599%25e8%2587%25aa%25e7%2584%25b6-%25e9%2598%25bf%25e5%25af%2592%25e6%25b9%2596%25e5%2591%25a8%25e8%25be%25ba%25e3%2581%25ae%25e3%2581%258d%25e3%2581%25ae%25e3%2581%2593%25e3%2581%25ae%25e6%25a3%25ae /magazine/archives/1767#respond Tue, 05 Nov 2019 07:35:38 +0000 /magazine/?p=1767 PDFファイル   北海道有数の観光地 ぼくが「きのこ粘菌写真家」を名乗り始めてから8年ほどになるのだが(忘れもしない東日本大震災発生の10日前に「ほぼ日刊イトイ新聞」で連載を始めたのがきっかけだ!)、主に写真…

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まるで焦げ跡のような形のカバノアナタケ

 

北海道有数の観光地

ぼくが「きのこ粘菌写真家」を名乗り始めてから8年ほどになるのだが(忘れもしない東日本大震災発生の10日前に「ほぼ日刊イトイ新聞」で連載を始めたのがきっかけだ!)、主に写真を撮影している場所は、全く変わることなく、北海道の阿寒湖周辺だ。毎年6月上旬から10月下旬まで阿寒湖温泉に滞在し、ほぼ毎日森へ出かけて、きのこや粘菌やコケなど、いわゆる隠花植物の撮影にいそしんでいる。

阿寒湖といえば、北海道有数の観光地である。阿寒湖温泉を中心とする、北海道釧路市阿寒地域の観光入込客数は、外国人観光客を合わせて、2018年度で161万人余り。今後もさらに増えそうな傾向にあるとか。

阿寒摩周国立公園に属することもさることながら、阿寒湖の名前を全国区にしているのは、何といっても国の特別天然記念物マリモの存在だろう。阿寒湖といえばマリモ、マリモといえば阿寒湖である。

マリモは淡水で生息する緑藻類の一種。球状のマリモが一つの生体というわけではなく、細い繊維(糸状体)がたくさん集まって球状になっているのだ。丸まらないタイプのマリモは、日本を含めて北半球の比較的寒冷な地域で何カ所も生育が確認されているが、球状で直径10センチメートル以上にもなるマリモが群生するのは、世界広しといえども阿寒湖だけだ。

 

傷付けると血のような液体が滲むチシオタケ

 

きのこ王国阿寒

自然を愛好する人たちは、有名な観光地を避ける傾向があるのではないかと思う。なぜならば、人が多いから。大自然の息吹を感じつつ目の前の光景に見入っているところに、添乗員率いる団体の観光客がぞろぞろ歩いてきたら、やはり興ざめである。逆に立ち止まったり座ったりしていたら、きっと他人には迷惑だろう。ぼくはかつて帯広市に8年住んでいたのだが、阿寒湖は、マリモと温泉が売りの大観光地だと思っていて、何を隠そう一度も訪れたことがなかった……。

だが、転機はいつも突然に訪れる。阿寒ネイチャーセンターというガイド会社の設立に関わることになり、阿寒湖との縁ができ、訪れてみてびっくりした。阿寒湖温泉街から少し離れただけで、人はおろか人工物さえほとんど視界に入らない、正真正銘、本物の森が広がっているのだ。阿寒の森の虜になるのに時間はかからなかった。森を歩くと、高山植物はもちろん、たくさんのきのこが目に入る。そこできのこに興味を持ち始めたことで、今のぼくがある。
「前田一歩園財団調査研究報告No.14阿寒国立公園のキノコ」(1997)によると、阿寒国立公園(当時)において、1993年から3年間行われた調査で、500種類以上のきのこが見つかっている。

阿寒湖周辺は、きのこ王国と呼んでも過言ではないだろう。

 

きのこシーズンの到来を告げるアミガサタケ

 

特異な生物相

阿寒湖は火山の噴火によってできた凹みに水がたまったカルデラ湖だ。阿寒カルデラと呼ばれているのは、雄阿寒岳も雌阿寒岳も含む広大なエリアで、その内側には阿寒湖沼群と呼ばれる、阿寒湖やオンネトーなど17の湖沼が点在している。湖沼の周囲には太陽の光が降り注ぐので比較的広葉樹が多く、本来の気候である冷温帯や亜寒帯に多く見られる針葉樹と相まって、針広混交林が形成されている。また、局所的ではあるが、冬でも地温が高い水蒸気噴気孔原があったり(温泉もあちこちで噴出)、真夏でも冷風が吹き出す風穴地があったりするので、昆虫や植物などの遠隔分布も多く見られ、他の地域に比べてけっこう特異な生物相が成立している。と、するなら、きのこのバリエーションも豊富なはずだ……。

阿寒湖周辺で気軽にきのこウオッチングを試みるなら、阿寒湖温泉の東部に位置するボッケ(泥火山)遊歩道が最適だろう。このエリアにはエゾマツやトドマツなどの針葉樹とカツラやミズナラなどの広葉樹が多く見られ、きのこの種類も多い。ぼくも阿寒湖滞在中には足しげくここに通い、たくさんのきのこや粘菌を撮影している。エゾリスやエゾモモンガとの出合いも楽しみのひとつだ。ここには火山性地熱地帯があるので、冬でも雪が積もらない。もしかしたら真冬でも、地面からきのこが生えるのではないかと期待している(いまだに見つけたことはないが)。

ヤナギから発生したヌメリスギタケモドキ

 

国立公園と私有地

阿寒湖の周辺はその多くが、一般財団法人前田一歩園財団が所有する私有地であり、そのうえ、国立公園にも指定されているので、立ち入りが制限されている場所も多く、自由気ままにきのこを探すというわけにはいかない。ボッケ遊歩道以外の森で、きのこ探しや散策をしたいなら、阿寒ネイチャーセンターなどが主催する、ガイドツアーを利用するのがいいだろう。前田一歩園財団が認定したガイドが、通常の観光客では入れないレアな森を案内してくれる。

 

新井 文彦〈あらい ふみひこ〉

1965年群馬県生まれ。きのこ写真家。北海道の阿寒湖周辺、東北地方の白神山地や八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌(変形菌)など、いわゆる隠花植物の撮影をしている。著書に『きのこの話』『きのこのき』『粘菌生活のススメ』『森のきのこ、きのこの森』『もりの ほうせき ねんきん』など。書籍、雑誌、WEBなどにも写真提供多数。

 

きのこには、食べると中毒事故を引き起こすものもあります。実際に食べられるかどうか判断する場合には、必ず専門家にご相談ください。

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[vol.9] 微生物が大活躍 阿寒富士山麓のきのこの森 /magazine/archives/1780?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e5%25be%25ae%25e7%2594%259f%25e7%2589%25a9%25e3%2581%258c%25e5%25a4%25a7%25e6%25b4%25bb%25e8%25ba%258d-%25e9%2598%25bf%25e5%25af%2592%25e5%25af%258c%25e5%25a3%25ab%25e5%25b1%25b1%25e9%25ba%2593%25e3%2581%25ae%25e3%2581%258d%25e3%2581%25ae%25e3%2581%2593%25e3%2581%25ae%25e6%25a3%25ae /magazine/archives/1780#respond Thu, 05 Sep 2019 08:18:28 +0000 /magazine/?p=1780 PDFファイル オンネトー湯の滝 きのこは微生物だ、と言うと、驚く人がいるかもしれない。そういう分類があるわけではないが、細菌とか原生生物とか、肉眼で見えない小さな生物の総称が微生物だ。きのこは肉眼でも見ることができるが…

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オンネトー湯の滝

倒木上の「小さな森」もまた美しい

きのこは微生物だ、と言うと、驚く人がいるかもしれない。そういう分類があるわけではないが、細菌とか原生生物とか、肉眼で見えない小さな生物の総称が微生物だ。きのこは肉眼でも見ることができるが、我々が一般的に「きのこ」と呼んでいるものは、きのこの生殖器官である子実体のことで、本体は地中や倒木の中にいる糸状の細胞、菌糸だ。つまり、きのこ本体の構成単位は肉眼では見えないので、きのこは微生物だといえる。

阿寒湖の南西に位置する雌阿寒岳の隣、阿寒富士の山麓に、微生物が活躍している滝がある。その名も、オンネトー湯の滝。阿寒摩周国立公園の特別保護地区にあり、国の天然記念物、日本の地質百選にも選ばれている。オンネトーの西岸を走る北海道道949号沿いに設けられた展望テラスに立つと、青緑色の湖水越しに、雌阿寒岳と阿寒富士が並ぶ絶景を目の当たりにできる。一見、右側にそびえる阿寒富士の方が高く見えるが、実際には標高1499メートルの雌阿寒岳の方が23メートル高い(テラスから見えるのは雌阿寒岳の9合目だ)。

オンネトー国設野営場への分岐の先にある広い駐車場に車を停め、施錠されているゲートの脇を抜けて(一般車両は通行禁止)、オンネトー湯の滝を目指そう。

 

オニイグチモドキの発生が夏の終わりを告げる

隠花植物天国

オンネトー湯の滝へ向かう林道は、アカエゾマツやトドマツを中心にした原生林の中を、ゆるやかに登っていく。小鳥の声やセミの声が森に響きわたる。ところどころで現れる谷筋を思わせる地形では、重なり合った大きな石や岩の上を、びっしりとコケや地衣類が覆っている。ヒカゲノカズラやマンネンスギなど小葉類のシダもたくさん生い茂り、原生林の雰囲気を一層濃くしている。また、ダケカンバやシラカンバが群生している場所もある。びっくりするほど
太くて大きいアカエゾマツやダケカンバを見ると、森の豊かさを実感する。そして、豊かな森の主役といえば、我らがきのこである。

夏から秋にかけては、本当に多種多様なきのこが発生するので、なかなか先に進むことができない。地面に目を落とすと、落葉を分解するオチバタケやハナオチバタケなど小さなきのこ、樹木と共生するやや大型の菌根菌のタマゴタケやドクツルタケやイグチの仲間など、色も大きさも形もさまざまなきのこが目に入る。倒木も要チェック。少し古い倒木には太くて立派なオオワライタケや、皿形で極小のアラゲコベニチャワンタケなどなど。倒れたばかりの樹木にはナラタケやスギタケなど中型のきのこが群生。フサヒメホウキタケなどきのこらしからぬ形のきのこもたくさんいるし、粘菌(変形菌)も多い。生きた樹木にも、ナラタケや多数のサルノコシカケの仲間が発生する。

特筆すべきは、9月上旬から10月中旬にかけて、真っ赤な傘に白い点々がある、きのこファン垂涎のベニテングタケを、ほぼ確実に見ることができることだ。

ベニテンロード、きのこロードなどと名付けたい……。

欧米では幸運の使者とされるベニテングタケ

生きた酸化マンガン鉱床

林道が下りに差しかかり、左へ大きくカーブすると、滝の流れる音が聞こえてくる。広場のような草地の向こうに、オンネトー湯の滝が見えてくる。高さ約20メートル、幅約10メートルの滝は、その名の通り温泉が流れており(源泉で約43 ℃)、流れるほどに幾重にも分岐して末広がりになり、下部に小さな湯だまりをつくっている。滝は2条あり、残る一つは、右上の方に流れ落ちている(かつて露天風呂があったが現在は立入禁止)。

ちなみに、心無い誰かが湯だまりに放し、みるみる数を増やしたナイルティラピアとグッピーは、冷水を引き込み温水を迂回させる作戦によって、今年、根絶が宣言された。野外に定着したナイルティラピアとグッピーを駆除で根絶したのは全国初だ。

オンネトー湯の滝の源泉や斜面には、光合成をして酸素を放出するシアノバクテリアなどの藍藻、その放出された酸素を温泉水中のマンガンイオンと結合させるマンガン酸化細菌など、多様な微生物が生息しており、それらの複合作用によって、滝の斜面や周辺に、酸化マンガン鉱床を生成している。まさに「生きた鉱床」だ。35億年前の地球で始まった海洋や大気が形成された現象と共通であり、地球環境や生命の歴史の解明につながる研究が期待さ
れている。

オンネトー湯の滝でマンガン鉱物が形成されていることは古くから知られていたが、それが微生物由来であり、陸上では世界唯一の場所であることがわかったのは、つい最近の1989年のことだ。流れ落ちる滝の間に緑色のコケが点在しているが、その周囲はいずれも黒い。この黒色沈殿物こそ、微生物たちの共同作業によって生まれた酸化マンガン鉱床だ。

森ではきのこなどの微生物が大車輪の活躍。そして、滝の水の中でも各種微生物たちが大活躍。自然は本当に奥が深い。

倒木上に勢揃いしたフサヒメホウキタケ

 

新井 文彦〈あらい ふみひこ〉
1965年群馬県生まれ。きのこ写真家。北海道の阿寒湖周辺、東北地方の白神山地や八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌(変形菌)など、いわゆる隠花植物の撮影をしている。著書に『きのこの話』『きのこのき』『粘菌生活のススメ』『森のきのこ、きのこの森』『もりの ほうせき ねんきん』など。書籍、雑誌、WEBなどにも写真提供多数。
きのこには、食べると中毒事故を引き起こすものもあります。実際に食べられるかどうか判断する場合には、必ず専門家にご相談ください。

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[vol.8] 森とハイマツと砂礫 雌阿寒岳山中のきのこの森 /magazine/archives/1797?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e6%25a3%25ae%25e3%2581%25a8%25e3%2583%258f%25e3%2582%25a4%25e3%2583%259e%25e3%2583%2584%25e3%2581%25a8%25e7%25a0%2582%25e7%25a4%25ab-%25e9%259b%258c%25e9%2598%25bf%25e5%25af%2592%25e5%25b2%25b3%25e5%25b1%25b1%25e4%25b8%25ad%25e3%2581%25ae%25e3%2581%258d%25e3%2581%25ae%25e3%2581%2593%25e3%2581%25ae%25e6%25a3%25ae /magazine/archives/1797#respond Sun, 07 Jul 2019 07:10:51 +0000 /magazine/?p=1797 PDFファイル 阿寒摩周国立公園の最高峰   標高1499メートルの雌阿寒岳は、気象庁などによる常時観測対象火山であり、常に数カ所から噴煙を上げている。阿寒摩周国立公園内の最高峰で、釧路市と足寄町にまたがってそ…

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阿寒摩周国立公園の最高峰

コケの間からひょっこり姿を現したヌメリササタケ

 

標高1499メートルの雌阿寒岳は、気象庁などによる常時観測対象火山であり、常に数カ所から噴煙を上げている。阿寒摩周国立公園内の最高峰で、釧路市と足寄町にまたがってそびえている。『日本百名山』の著者である登山家の深田久弥は、雌阿寒岳と雄阿寒岳を「阿寒岳」と総称し、両方登るつもりだったが、噴火の影響で雌阿寒岳は登山禁止だったため、実際に登ったのは雄阿寒岳のみだった。昨今の百名山ブームのなか、登山者が「阿寒岳」として登っているのは、雄阿寒岳に比べて標高が高く登山時間が短い雌阿寒岳のみの場合が多い。

雌阿寒岳の登山口は、阿寒湖温泉、雌阿寒温泉、オンネトー国設野営場にあるが、人気があるのは雌阿寒温泉を往復するルートだ。体力に余裕がある人には、雌阿寒温泉から登り、雌阿寒岳と阿寒富士の両ピークを踏んでオンネトー国設野営場へと下り、道道949号あるいはアカエゾマツの森の中の遊歩道を歩いて、雌阿寒温泉に至るルートをおすすめする。

この辺りの森林限界(高山などで森林が生育できる限界線)は標高1000メートルくらいなので、標高約650メートルのオンネトーテラスから雌阿寒岳を眺めると、半分くらいの高さで樹林帯が終わり、そこから上がハイマツ帯になっているのがわかる。見えている最上部(9合目)はハイマツすら生えない火山らしい砂礫帯で、奥にゆらゆら立ち上る噴煙が見える。

 

ドクベニタケはマツなどと共生する菌根菌

 

アカエゾマツの純林

 

山麓を覆う軽石の間からアミタケが発生!

いざ、雌阿寒岳へ。
雌阿寒温泉登山口は、立派なアカエゾマツの森の中にあり、1合目までは傾斜がややきついが、2合目の手前からゆるむ。こちらの目的はきのこ鑑賞なので、周囲の森林風景を楽しみつつ、立ち止まったり座ったり、のんびり歩けばいい。

2合目付近に広がる平坦な場所では、空に向かって真っすぐ伸びるアカエゾマツの巨木が、何百本、何千本と立ち並び、その絶景は筆舌に尽くしがたい。赤っぽいアカエゾマツの幹の色に対し、周囲の地面、大きな石や岩の上は、濃淡さまざまな緑色で覆われている。そう、コケや地衣類だ。

気が遠くなるような昔の話だが、この辺りは、雌阿寒岳の噴火により、溶岩や火山灰などが積もった不毛の大地だった。そこへ先駆植物といわれるコケや地衣類が姿を現し、樹木の種の受け皿となり、いつしか貧栄養に耐え硫黄にも強いアカエゾマツが芽生え、成長し、自らの遺骸や堆積した落葉などがやがて土壌をつくり、長い長い時間をかけて、今ある森をつくってきた。そして、多くの人は想像すらしないかもしれないが、樹木と互いに栄養をやりとりして共生する菌根菌、生物遺骸を分解して無機物へ還す腐生菌など、きのこや菌類の存在が、森の成長・発展に大きく影響しているのだ。

したがって、この森では、周囲を見渡せば、必ずきのこの姿が目に入る。夏から秋にかけての地面からは、ドクベニタケやテングタケなどの毒きのこ、ショウゲンジやヌメリササタケなど食用になるきのこ、ヒナノヒガサやヒメコガサなどコケや地衣類の間から生える極小きのこなど、種類こそそれほど多くないが、たくさんのきのこが発生する。眼福だ。

 

ハイマツ帯から砂礫帯へ

登山道をさらに進む。3合目に至る間、ハイマツが目立ち始めると同時にアカエゾマツが徐々に細く小さくなる。もうすぐ森林限界だ。4合目のすぐ下でアカエゾマツの姿はなくなり、その名の通り地面を這うように横へと伸びるハイマツが主役になる。一気に視界が開け、眼下に紺碧のオンネトーや広大な樹海を見ることができる。6月下旬から9月上旬にかけては、ハイマツの合間に広がる砂礫で、雌阿寒岳の名を冠した、メアカンキンバイ、メアカンフスマを始
め、イワブクロ、マルバシモツケ、コマクサなどの高山植物が、可憐な花を咲かせる。

ハイマツの樹下は幾重にも落葉が敷き詰められた土壌になっており、アミタケ、ドクベニタケ、マツタケモドキ、ホウキタケの仲間などが発生する。以前、ハイマツの周囲にある軽石や砂礫の間から、アミタケが発生しているのを見つけた時には、その環境適応能力、生命力の強さに、ただただ感動した。

8合目から上はハイマツの姿もほぼなくなり、砂や小石ばかりの活火山らしい荒涼とした風景が広がる。さすがにきのこの姿を見ることはないが、コケや地衣類はそこかしこで石や岩にへばりついて生きている。

雌阿寒岳の頂上から北東方向には、下り斜面の途中にぽっかり空いた巨大な穴からもくもく上がる噴煙越しに、阿寒湖が見える。右の大きな山は雄阿寒岳だ。手前の湖岸に阿寒湖温泉の建物がちらほらと確認できるが、あとは見渡す限り、森、森、森……。きのこがひっそりと生きている、広大な樹の海が広がっている。

ちなみに、雌阿寒岳、雄阿寒岳の4合目から上は、国立公園の特別保護地区なので、植物はもちろん、きのこなども採取することはできない。

 

きのこなど菌類の働きで倒木は無機物に還っていく

新井 文彦〈あらい ふみひこ〉
1965年群馬県生まれ。きのこ写真家。北海道の阿寒湖周辺、東北地方の白神山地や八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌(変形菌)など、いわゆる隠花植物の撮影をしている。著書に『きのこの話』『きのこのき』『粘菌生活のススメ』『森のきのこ、きのこの森』『もりの ほうせき ねんきん』など。書籍、雑誌、WEBなどにも写真提供多数。

きのこには、食べると中毒事故を引き起こすものもあります。実際に食べられるかどうか判断する場合には、必ず専門家にご相談ください。

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[vol.7] 十勝東北部の森と湖オンネトー周辺のきのこの森 /magazine/archives/1655?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e5%258d%2581%25e5%258b%259d%25e6%259d%25b1%25e5%258c%2597%25e9%2583%25a8%25e3%2581%25ae%25e6%25a3%25ae%25e3%2581%25a8%25e6%25b9%2596%25e3%2582%25aa%25e3%2583%25b3%25e3%2583%258d%25e3%2583%2588%25e3%2583%25bc%25e5%2591%25a8%25e8%25be%25ba%25e3%2581%25ae%25e3%2581%258d%25e3%2581%25ae%25e3%2581%2593%25e3%2581%25ae%25e6%25a3%25ae /magazine/archives/1655#respond Tue, 07 May 2019 09:37:39 +0000 /magazine/?p=1655 年老いた湖   オンネトーは、阿寒湖の南西部、雌阿寒岳の山麓に位置する周囲4キロメートルほどの小さな湖だ。その昔、雌阿寒岳の噴火によって、川がせき止められてつくられたという。北海道の多くの地名と同じくアイヌ語が…

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年老いた湖

小さくて美しいシロコナカブリは松葉を分解するきのこ

 

オンネトーは、阿寒湖の南西部、雌阿寒岳の山麓に位置する周囲4キロメートルほどの小さな湖だ。その昔、雌阿寒岳の噴火によって、川がせき止められてつくられたという。北海道の多くの地名と同じくアイヌ語が語源で、「オンネ」が、年老いた、大きい、「トー」は、湖や沼という意味だ。阿寒摩周国立公園に含まれるが、地域的には十勝の足寄町に属する。やや有名な観光地なので、コバルトブルーの美しい湖水、そしてその奥に雌阿寒岳と阿寒富士が並んでいる写真を、ご覧になったことがある方もいるのではないか。

実は、ここ数年、オンネトーに劇的な変化が起きている。湖水がコバルトブルーから緑がかった色に変色してしまったのだ。かつては、酸性度が強くて魚がすめず、ニホンザリガニかトンボの幼虫のヤゴくらいしか生息できなかった。ところが近年、浅瀬をささっと動くハゼの仲間らしき魚の姿があちこちで見られるようになった。どうやら、水質が酸性から中性に変わってしまったらしい。原因は不明だが、人為的な影響によるものではないと思われる。

ぼくは、きのこや粘菌やコケなどを鑑賞することを目的としてオンネトーを訪れているが、湖水の色や水質や生態系の変化は重要な問題で、とても気になっている。

 

楽々きのこ探し

食通垂涎の美味きのこ、ポルチーニ茸ことヤマドリタケ

オンネトーの湖畔沿いには針広混交林が広がり、雌阿寒岳方面に向かうと、アカエゾマツが多く見られ、ほかの場所ではトドマツを多く見ることができる。広葉樹、針葉樹を問わず、そこそこ樹種が多いので、きのこを探すには最適である。

南北に細長い形のオンネトーの周囲は、舗装された車道と遊歩道が半々くらいの割合で、ぐるりと一周歩くことができる。温泉が滝になって流れている「湯の滝」への遊歩道(一般車両通行禁止の林道)、雌阿寒岳の登山基地・雌阿寒温泉に通じる遊歩道が整備されているので、安心して森歩きを楽しむことができる。また、国設の野営場もある。

オンネトーの西側、舗装された道道949号の脇を歩く。道が狭いうえ観光シーズンともなれば車やバスが多く行き交うので注意が必要だが、車道は歩きやすいし、きのこもたくさん見ることができる(やや味気ないが……)。

湖岸は、ダケカンバやナナカマドなどの広葉樹が多く、初夏の木々の葉の色は、マツを含めて、ひときわ鮮やかで美しい。北海道東部では、例年、7月中旬くらいまで新緑が楽しめる。

車道を歩くのにおすすめの時期は、9月下旬頃だ。きのこ好き憧れのベニテングタケが、車から降りずともその姿を確認できるほどたくさん発生する(とはいえ、きのこ好きであれば、絶対に下車して間近で鑑賞するに違いないが……)。ハナオチバタケや、シロコナカブリといった、落ち葉を分解する小さくてかわいらしいきのこも必見だ。

また、写真を撮影するなら、本州よりもひと足早く始まっている紅葉や、美しい湖面や、正面に見える雌阿寒岳と阿寒富士を背景に配置して、森の中とはちょっと違ったきのこ写真を撮ることができる。

 

見ること、気付くこと

さて、今度は、オンネトーの東側に広がる森へ入ってみよう。駐車場付きの展望スポットが点在する車道とは異なり、こちら側の遊歩道は、すれ違う人が少ない。初夏から初秋にかけては、ゴゼンタチバナやマイヅルソウなどの高山植物が随所で花を咲かせ、湿地では食虫植物のモウセンゴケが群落をつくる。

舗装された道道から狭い遊歩道に足を踏み入れると、森の香りがひときわ濃くなる。いわゆる森林浴効果をもたらすフィトンチッドだ。右手にオンネトーを眺めながらしばらく進むと、微生物がつくり出した鉄分が水に触れて酸化し、浅い沼底に沈殿している錦沼

を源とする小さな川を渡る。辺り一面、土が錆色だ。

遊歩道は湖岸に沿って進むので、足場は多少悪いものの、アップダウンはほとんどない。アカエゾマツやダケカンバの巨木があちこちで見られるほか、倒木も多い。オンネトーを背にして雌阿寒岳方面に広がる原生林は、見るからに鬱蒼としている。そのまま進むと、雌阿寒温泉への分岐があり、野営場へと至る。

阿寒の原生林に入ると、都会の人は「何もない」と思うかもしれない。確かに、人間がつくったものは何もない。しかし、よく見ると、森は、さまざまな命や命だったものを含めて、自然がつくったものであふれている。例えば倒木だ。目を凝らすと、コケや地衣類

が「林立」し、その間を小さな虫が動き回る。もちろん、きのこや粘菌の姿もある。まるで小さな森だ。小さなきのこやコケや地衣類をルーペで観察すると、その精緻さ、美しさに思わず息をのむ。倒木を「鑑賞」しないのはあまりにももったいない。

原生林を歩くと、五感が敏感になる。自分の感性がどんどん豊かになっていくのが実感できる。

水に落ちたマツの葉や枝から発生するカンムリタケ

 

まるでランプシェードのような形をしたハナオチバタケ

 

新井 文彦〈あらい ふみひこ〉

1965年群馬県生まれ。きのこ写真家。北海道の阿寒湖周辺、東北地方の白神山地や八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌(変形菌)など、いわゆる隠花植物の撮影をしている。著書に『きのこの話』『きのこのき』『粘菌生活のススメ』『森のきのこ、きのこの森』『もりの ほうせき ねんきん』など。書籍、雑誌、WEBなどにも写真提供多数。

きのこには、食べると中毒事故を引き起こすものもあります。実際に食べられるかどうか判断する場合には、必ず専門家にご相談ください。

 

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[vol.6] 美しい渓谷とブナの森 十和田・奥入瀬のきのこの森 /magazine/archives/64?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e5%258d%2581%25e5%2592%258c%25e7%2594%25b0%25e3%2583%25bb%25e5%25a5%25a5%25e5%2585%25a5%25e7%2580%25ac%25e3%2581%25ae%25e3%2581%258d%25e3%2581%25ae%25e3%2581%2593%25e3%2581%25ae%25e6%25a3%25ae /magazine/archives/64#respond Tue, 05 Mar 2019 09:10:23 +0000 http://www.sanyo-chemical.co.jp/magazine/?p=64 隠花植物天国 国立公園の特別保護地区にしをつくっている。超が付くほど有や、周囲のブナ林が、見事な景観な種類の樹木が見られる河畔林美しい渓流と相まって、さまざまよる洪水でつくられた深い谷だ。は、はるか昔、十和田湖の決壊にで…

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隠花植物天国

落葉を分解する小さなきのこもブナの森を支える

国立公園の特別保護地区にしをつくっている。超が付くほど有や、周囲のブナ林が、見事な景観な種類の樹木が見られる河畔林美しい渓流と相まって、さまざまよる洪水でつくられた深い谷だ。は、はるか昔、十和田湖の決壊にでもある、青森県の奥入瀬渓流て、国指定天然記念物、特別名勝名な観光地ゆえ、のんびり散策するにはあまりにも人が多すぎるし、おまけに、阿寒湖周辺のようにあちこち好き勝手に歩き回ることができないが、ぼくはこの辺りが大好きで、もう20年近く、春と初夏と秋に必ず訪れている。

八甲田山の麓にある酸ヶ湯温泉から、蔦温泉を経て、奥入瀬渓流に沿って十和田湖へと至る、国道103号、102号は、道が細くてカーブもややきついが、最高のドライブコースだ。何回走ってもわくわくする。

最近では、屋久島や北八ヶ岳とともに「コケの三大聖地」としても注目を集めており、コケ観察を目当てにこの地を訪れる人も増えているという。もちろん、我らがきのこをはじめとして、粘菌(変形菌)やシダなどの隠花植物をたくさん見ることができる。

 

待ちに待った春

アカチシオタケ

傷つけると「血潮」がにじむアカチシオタケ

北国の春は、爆発的だ。北国の生物は、ツキノワグマも、植物も、進化によって得たそれぞれの方法で、長い長い冬を耐え忍び、そのつらさや厳しさを自らの内側にエネルギーとしてぎゅっとためこみ、再び巡ってきた春に、その全てを命の輝きとして放出しているに違いない。

里で桜の蕾が大きくなる頃、雪によって覆い隠されていた山や森の地面が、徐々に姿を現し始める。雪の保冷作用のためか、前秋に落ちた大量の葉は、あまり形崩れすることなくそのまま敷き詰められている。その茶色い大地が、あれよあれよという間に緑の葉に覆われ、カタクリや、キクザキイチゲや、ニリンソウなど、ピンク、紫、青、白といった色とりどりの花が、互いに誘爆するように一気に咲き始める。渓流の脇の湿地帯に目を向ければ、ミズバショウやザゼンソウも花を咲かせる。

しかし、百花繚乱の草花が咲き競っていても、我々きのこファンは、早春に発生するきのこをついつい追い求めてしまう。例えば、アネモネタマチャワンタケは、キクザキイチゲなど、イチリンソウの仲間の周辺で発生する。また、食用として知られるヒラタケやキクラゲも、まず春に発生する(奥入瀬渓流周辺は採取不可)。きのこ探しは季節を問わない。

気温がぐんぐん上がって雪が解け、モノトーンだった世界に、草花など自然の「命」がさまざまな色となって戻ってくる……。

春を迎えた時の感動や快感は、北国に住んでいないとなかなか実感できないかもしれない

新緑の季節

地上で草花が競うように花を咲かせ、その美しさに心を奪われている間にも、木々の葉は確実に生い茂り、森は徐々に鬱蒼としていく。人間の目は、構造的に、太陽から降り注ぐ七色の光のうち、緑色の光を一番敏感に感じ取ることができるというが、新緑期のブナの森の緑は感動的だ。美しいと形容するだけではもどかしい。木々の命の営みが、視覚化されて、目の前できらめいているのだ。この世の奇跡といっても過言ではないだろう。

 

新緑のブナの森を満喫したいなら、奥入瀬渓流の北側に位置する蔦温泉周辺もおすすめだ。蔦温泉は日本百名湯に選ばれており、ブナ材を敷き詰めた湯船の底から「玉」になって湧き上がる温泉がたまらない。

 

蔦温泉の周囲には蔦沼を中心にした七つの沼を巡る遊歩道が整備されていて、気軽にブナの原生林を散策することができる。時折出会う、感動するほど太いブナの木に会いたくて、何度もここを訪ねてしまう。ブナの森はきのこの森というにふさわしい。ブナの立木、倒木、落枝、実、朽ちた葉、そして地面からも、いろいろな種類のきのこが発生する。

 

ぜひ、立ち止まって、しゃがんで、地面や倒木を探してみてほしい。それまで気が付かなかった小さなきのこたちがきっと見つかるはずだ。また、夏に、ブナの葉を食い荒らすブナアオシャチホコというガの幼虫が、8〜10年周期くらいで大発生することがあるが、大発生の翌年には、ガの幼虫や蛹に寄生する、いわゆる冬虫夏草のサナギタケが多く発生する。

タヌキノチャブクロ

渓流沿いの倒木から大発生したタヌキノチャブクロ

物見遊山を超えて

ナメコ

ナメコは秋のブナの森を彩る優秀な食菌だ

奥入瀬渓流に、一年で最も多くの人々が集うのが秋だ。渓流と紅葉の組み合わせは、古来より人々を引き付けてやまない。そして、秋の奥入瀬は、きのこファンにとっても、特別な場所である。おいしいきのこもたくさん発生するが、そこは、国立公園特別保護地区。ぜひ、見ること、撮ることだけに徹してほしい。

 

さらには、じっくりと腰を据えて、観察・鑑賞してほしいと思う。近年、奥入瀬渓流周辺では、物見遊山的な観光を超えて、エコツーリズムを積極的に推進しようとしている。素晴らしい試みだ。例えば、知識も経験も豊富なネイチャーガイドと一緒に渓谷や森を歩いたら、新しい発見が胞子の数ほどあるだろう。そして、それは必ず、自分の財産になるはずだ。

新井 文彦〈あらい ふみひこ〉

1965年群馬県生まれ。きのこ写真家。北海道の阿寒湖周辺、東北地方の白神山地や八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌(変形菌)など、いわゆる隠花植物の撮影をしている。著書に『きのこの話』『きのこのき』『粘菌生活のススメ』『森のきのこ、きのこの森』『もりの ほうせき ねんきん』など。書籍、雑誌、WEBなどにも写真提供多数。

きのこには、食べると中毒事故を引き起こすものもあります。実際に食べられるかどうか判断する場合には、必ず専門家にご相談ください。

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[vol.5] アカエゾマツの楽園 雌阿寒岳北西山麓のきのこの森 /magazine/archives/935?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e3%2582%25a2%25e3%2582%25ab%25e3%2582%25a8%25e3%2582%25be%25e3%2583%259e%25e3%2583%2584%25e3%2581%25ae%25e6%25a5%25bd%25e5%259c%2592-%25e9%259b%258c%25e9%2598%25bf%25e5%25af%2592%25e5%25b2%25b3%25e5%258c%2597%25e8%25a5%25bf%25e5%25b1%25b1%25e9%25ba%2593%25e3%2581%25ae%25e3%2581%258d%25e3%2581%25ae%25e3%2581%2593%25e3%2581%25ae /magazine/archives/935#respond Fri, 11 Jan 2019 09:10:07 +0000 http://www.sanyo-chemical.co.jp/magazine/?p=935 北海道の木 雌阿寒岳は日本百名山に選ばれており、夏山シーズンの休日ともなれば多くの登山者でにぎわう。その代表的な登山口が十勝の足寄町にある雌阿寒温泉で、周囲には広大な天然林が広がっている。 この辺りの森で多く見られる樹種…

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北海道の木
ベニカノアシタケとアリドオシラン

ベニカノアシタケとアリドオシランの共演

雌阿寒岳は日本百名山に選ばれており、夏山シーズンの休日ともなれば多くの登山者でにぎわう。その代表的な登山口が十勝の足寄町にある雌阿寒温泉で、周囲には広大な天然林が広がっている。

この辺りの森で多く見られる樹種は、何といってもアカエゾマツだ。日本国内では、ほぼ北海道内でしか生育しておらず、エゾマツ(クロエゾマツ)と合わせて「北海道の木」に選定されている、名実ともに北海道を代表する樹木だ。「ほぼ」と書いたのは、実は、岩手県の早池峰山で、小規模ながら遠隔分布しているから。北海道の山地や亜高山帯では普通に見られる樹木だが、本州の生育地域は、国の天然記念物や自然環境保全地域に指定されている。

アカエゾマツの魅力

アカエゾマツは、高さ30~40メートル、幹の太さ1~1.5メートルほどに達する(湿原などでは小型)、マツ科トウヒ属の常緑針葉樹だ。阿寒湖周辺で、やや赤いうろこ状の樹皮のマツを見かけたら、ほぼアカエゾマツだと思っていい。均整のとれた円錐形の立ち姿は美しく、幼木はクリスマスツリーそのものだ。

基本的にほかの樹種と混交している場合が多いが、雌阿寒岳の山麓、そして、山麓から三合目にかけては、ほかの樹種とは混交しない「純林」が広がっている。というのも、アカエゾマツは、湿地、溶岩上、火山礫の土壌、あるいは海岸の砂丘など、栄養が乏しく、ほかの樹種が育たないような劣悪な環境でも生きていけるから。硫黄への耐性も高いという。

エゾサルノコシカケ

極寒の冬にも耐えるエゾサルノコシカケ

個人的には、このアカエゾマツの純林を見るためだけでも、この地を訪れる価値が十分あると思っている。とはいえ、きのこが見つからないことはあり得ないのだが……。

アカエゾマツの森へ

雌阿寒温泉から、北海道三大秘湖の一つで有名な景勝地であるオンネトー方面へ遊歩道を進むと、空気の香りや皮膚感覚ががらりと変わる。純林、とはいうものの、トドマツ、エゾマツ、ダケカンバ、ミズナラなど、ほかの樹種もたくさん見ることができる。見上げると、数十メートル上をアカエゾマツの針のような葉が、まるでドームの屋根のように黒くびっしりと覆い尽くしており、地上から数メートルの高さには、チシマザクラ、ナナカマド、イタヤカエデなどの広葉樹が、やや所在なさそうに葉を広げている。秋になるとそれら広葉樹の紅葉が思いのほか美しい。また、初夏に可憐な花を咲かせるハクサンシャクナゲもたくさん自生している。

木々の葉で陽光が遮られるために、地上はササがやぶを作ることなく、落ち葉の降り積もった地面を覆うように、各種高山植物、コケ、シダなどがびっしりと生い茂っている。また、至る所に倒木がある。マツの仲間は、根を地中に垂直に伸ばさず横に広げるので(生えているというよりも置いてあるイメージ)、冬に低気圧が発達して暴風が吹くと、けっこう簡単に根こそぎ倒れてしまうのだ。

倒木は天然林の象徴だ。人間が管理している場所であれば、無駄なものとしてすぐに片付けられてしまうだろうが、天然の森では、きのこをはじめ、いろいろな生物の餌やすみかになる。倒木は決して無駄や邪魔ではなく、森の宝物といっても過言ではない。しかも、太く大きな木が倒れれば、間引きしたのと同じく、そこからまた森が活性化されていくのだ。

 

地衣類や高山植物が生えた根株

地衣類や高山植物が生えた根株は「小さな森」だ

 

遊歩道をさらに進むと、所々に開けた場所があり、空へと真っすぐに伸びた太くて大きなアカエゾマツを、根元からてっぺんまで見渡せる。この辺りは、真冬の気温が零下25度を下回るほどの寒冷地なので、木々の生育は遅いはず。大人が二人でも抱え切れないほどの太さになるまでの、気の遠くなるような時間に、つい想いを馳せる。

もう一つの「小さな森」

仕事柄、というか、個人的な嗜好により、ぼくはどの森を訪れても、地面と倒木ばかり見る傾向がある。そう、大好きなきのこや粘菌(変形菌)を探すためだ。初夏から夏にかけて、ゴゼンタチバナやマイヅルソウやアリドオシランが可憐な花を咲かせていても、秋に紅葉した木々の葉が地面に美しい錦絵を描いていても、気になるのは、その隣に、脇に、生えているであろう、オウバイタケなどの小さなきのこたち。しゃがみこんで、地面をじっくり眺めると、あちこちに小さなきのこが生えていることに気付く。歩きながら探しても決して目に入らない小さな妖精たちである。

さらには、何年も同じ倒木を観察していると、季節ごと、というより、一週間単位で、発生するきのこの種類が入れ替わるし、経年変化によっても発生するきのこが違う。自他ともに認める倒木ファンとしては、ルーペを片手に、倒木上の「小さな森」を見る楽しみを、多くの方にお伝えしたいと強く思う。

雌阿寒岳の麓に広がるアカエゾマツの純林と、その倒木に広がる「小さな森」は、いつ訪れても、特別な時間を過ごさせてくれる、とっておきの場所である。きのこなど「隠花植物」ファンであればなおさらだ。

スギタケ

アカエゾマツの倒木から発生したスギタケ

新井 文彦〈あらい ふみひこ〉

1965年群馬県生まれ。きのこ写真家。北海道の阿寒湖周辺、東北地方の白神山地や八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌(変形菌)など、いわゆる隠花植物の撮影をしている。著書に『きのこの話』『きのこのき』『粘菌生活のススメ』『森のきのこ、きのこの森』『もりの ほうせき ねんきん』など。書籍、雑誌、WEBなどにも写真提供多数。

きのこには、食べると中毒事故を引き起こすものもあります。実際に食べられるかどうか判断する場合には、必ず専門家にご相談ください。

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[vol.4] 水辺に広がる針広混交林 阿寒湖・南東部湖沼群 /magazine/archives/739?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e6%25b0%25b4%25e8%25be%25ba%25e3%2581%25ab%25e5%25ba%2583%25e3%2581%258c%25e3%2582%258b%25e9%2587%259d%25e5%25ba%2583%25e6%25b7%25b7%25e4%25ba%25a4%25e6%259e%2597-%25e9%2598%25bf%25e5%25af%2592%25e6%25b9%2596%25e3%2583%25bb%25e5%258d%2597%25e6%259d%25b1%25e9%2583%25a8%25e6%25b9%2596%25e6%25b2%25bc%25e7%25be%25a4 /magazine/archives/739#respond Wed, 07 Nov 2018 08:56:28 +0000 http://www.sanyo-chemical.co.jp/magazine/?p=739 阿寒湖有数の景勝地 阿寒湖周辺に広がる森は、ほぼ阿寒摩周国立公園内にある。特に、阿寒湖の北部から東部にかけての雄阿寒岳山麓にあたる地域は、「特別保護地区」に指定されているので、森への立ち入りは基本的に許可されていない。し…

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阿寒湖有数の景勝地
ツリガネタケ

景勝地「滝口」を望む絶好の場所に発生したツリガネタケ

阿寒湖周辺に広がる森は、ほぼ阿寒摩周国立公園内にある。特に、阿寒湖の北部から東部にかけての雄阿寒岳山麓にあたる地域は、「特別保護地区」に指定されているので、森への立ち入りは基本的に許可されていない。しかし、国立公園特別保護地区といえども、遊歩道や登山道が整備されている場所では、気兼ねなく(もちろんルールを守って)、原始そのままの姿を今に残す森を堪能することができる。

通称「滝口」と呼ばれている阿寒湖の南東部には、雄阿寒岳の登山口がある。登山道を阿寒湖に沿ってしばらく歩き、阿寒湖から流れ出している沢を渡って、そのまま進むと太郎湖にいたる。太郎湖を見下ろして歩いていると、ところどころで地面の下からざわざわと勢いよく水が流れ出し、太郎湖へと注ぎ込んでいる。湧水ではなく、阿寒湖の水だ。さらに登山道を進むと次郎湖にたどり着く。流入河川も流出河川も持たない次郎湖も、やはり、地中で阿寒湖とつながっているという。

 

コオトメノカサ

渓流沿いの苔むした倒木からコオトメノカサが発生

 

阿寒湖には二つの流れ出しがあり、いずれも南東部にある。一つはそのまま阿寒川として流れ下る。もう一つは登山道に並行して太郎湖へと流れ込み、そこから滝を思わせる急流となり、国道240号にかかる紅葉のビューポイント・滝見橋の下で、先ほどの阿寒川と合流。「完全」な阿寒川となり、はるか太平洋を目指す。

滝口付近には、木々が生えている大小19個の岩が点在しており、これを島に見立てて「十九列島」と呼ばれている。この場所は、遊覧船も周遊ルートに組み入れている、阿寒湖有数の景勝地にして、紅葉の名所だ。

魅力的で足遠い森

バライロウラベニイロガワリ

触れると変色する毒きのこ、バライロウラベニイロガワリ

雄阿寒岳の山麓にあたる、阿寒湖南東部の滝口や、太郎湖、次郎湖の周辺には、広葉樹がやや多い針広混交林が広がっている。水際には、ダケカンバ、ミズナラ、ナナカマドなどの広葉樹が多く見られ、山側に目を転じると、トドマツやアカエゾマツなど針葉樹が多くなる。春にはエゾムラサキツツジ、夏にはハクサンシャクナゲが、人知れず花を咲かせる。

きのこが発生する場所を、針葉樹、広葉樹、地面、その他(生体など)と、大きく四つに分けてみると、針広混交林の森には、その全てが存在する。多種類のきのこを見ることができる可能性が高い。
しかし、白状すると、この森はとても魅力的ではあるが、ぼくはそれほど足しげく通っているわけではない。なぜならば、人が多いから。人が多い、といっても、雄阿寒岳の登山者がほとんどで、入山者は夏休みの繁忙期でも一日に数十人というレベルなので、内地にお住まいの方は驚くかもしれない。だが、そもそもぼくがいつも訪れているいくつかの森は、一般の人が行かない場所ばかり。腹ばいになったり、三脚を広げたりするぼくの写真撮影スタイルは、狭い登山道を通行する人にとってはすごく邪魔だし、何よりアクロバティックな格好で撮影している姿を、人に見られるのはとても恥ずかしい(クマさんに見られていた時はさすがに怖かった……)。
とはいえ、素晴らしい森なので、月に数回くらいは訪れている。主に、平日の早朝を狙って。

四季折々、見どころ多数の森

春から夏にかけては、多種多様な高山植物が可憐な花を咲かせる。秋になれば、木々の葉が赤や黄色に色付き、鮮やかな装いを見せてくれる。そして、声を大にしてお伝えしたい魅力なのだが、冬に、防寒着をしっかり着込み、スノーシューをはいて、一面雪に覆われたこの森を歩く楽しさときたら、もう。雪で真っ白になった木々や凍った湖面と真っ青な空の、対照的なビジュアルは鮮烈だ。冬は、地面の凹凸を積雪が解消してくれるし、クマさんは冬眠中なので、いいことずくめなのである。

しかし、いつ訪れようが、ぼくの目に入るのは、やはりきのこ。各種高山植物の葉の間、樹木の幹、倒木などなど、探すともなくきのこが目に入ってしまう。冬の間は、草花や一般的なきのこを見ることはできないが、木々の幹や枝には、サルノコシカケの仲間など、多年生のきのこがしっかり生きているし、地衣類も見ることができる。ちなみに、地衣類とは、菌類と植物(藻類、シアノバクテリアなど)の共生体で、外観がコケに似ているし「コケ」という名が付けられたりしているが、分類的には立派な菌類だ。ぼくは倒木が大好きで、見つけるとつい長居をしてしまう。まずは、きのこがいないか、端から端まで、上から下まで、眺め回す。きのこや粘菌を見つけて、気が済むまで観賞・撮影したら、次に樹皮を覆うコケや地衣類をルーペ(10倍程度)でチェックする。

同じ倒木でも、季節ごとに、あるいは経年変化で、発生するきのこの種類が違う。きのこの観賞は一期一会だ。
雄阿寒岳の山麓には、阿寒湖、ペンケトー、パンケトーをはじめとして、太郎湖、次郎湖、ヒョウタン沼、じゅんさい沼、兄弟沼など、多くの湖沼がある。そのいずれも、豊かな森に囲まれており、きのこの楽園である。人間の立ち入りは厳しく制限されているが……。

枯枝に広がるアカウロコタケと、地衣類のサルオガセ(紐状)

 

 

新井 文彦〈あらい ふみひこ〉

1965年群馬県生まれ。きのこ写真家。北海道の阿寒湖周辺、東北地方の白神山地や八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌(変形菌)など、いわゆる隠花植物の撮影をしている。著書に『きのこの話』『きのこのき』『粘菌生活のススメ』『森のきのこ、きのこの森』『もりの ほうせき ねんきん』など。書籍、雑誌、WEBなどにも写真提供多数。

きのこには、食べると中毒事故を引き起こすものもあります。実際に食べられるかどうか判断する場合には、必ず専門家にご相談ください。

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[vol.3] ブナの森の魅力 青森県・白神山地のきのこの森 /magazine/archives/877?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=%25e3%2583%2596%25e3%2583%258a%25e3%2581%25ae%25e6%25a3%25ae%25e3%2581%25ae%25e9%25ad%2585%25e5%258a%259b-%25e9%259d%2592%25e6%25a3%25ae%25e7%259c%258c%25e3%2583%25bb%25e7%2599%25bd%25e7%25a5%259e%25e5%25b1%25b1%25e5%259c%25b0%25e3%2581%25ae%25e3%2581%258d%25e3%2581%25ae%25e3%2581%2593%25e3%2581%25ae%25e6%25a3%25ae /magazine/archives/877#respond Mon, 10 Sep 2018 02:39:48 +0000 http://www.sanyo-chemical.co.jp/magazine/?p=877 大好きな広葉樹の森 きのこの写真を本格的に撮影し始めた2007年から、ぼくの主な撮影フィールドは、ずっと変わらず北海道の阿寒湖周辺の森だ。初夏から晩秋にかけて、阿寒の森の中で、相も変わらず、ひたすら、飽きることなく、写真…

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大好きな広葉樹の森
クリタケ

秋本番のブナの森で食用になるクリタケが生えていた

きのこの写真を本格的に撮影し始めた2007年から、ぼくの主な撮影フィールドは、ずっと変わらず北海道の阿寒湖周辺の森だ。初夏から晩秋にかけて、阿寒の森の中で、相も変わらず、ひたすら、飽きることなく、写真を撮影している。多少変化したことがあるとするなら、きのこ一辺倒だった撮影対象に、粘菌(変形菌)が加わり、ここ数年で、さらに地衣類とコケとシダが加わった。

ぼくの興味は、年を経るごとに、いわゆる「隠花植物」全般へと、どんどん広がっている。実は、阿寒の森のほかに、もう一つ大好きな森がある。秋田県北西部と青森県南西部にまたがる白神山地だ。ご存じの方も多いと思うが、ユネスコの世界自然遺産に登録されている、ほとんど人の手が加わっていない世界最大級のブナの原生林で、動植物、菌類など、多種多様な生きものが生息している。阿寒湖周辺では、針葉樹と広葉樹が入り混じっている針広混交林と、マツを中心にした針葉樹の森が多く見られるが、広葉樹が形成している大規模な森は、ほとんどお目にかかれない。それだけに、広葉樹のブナの森は全くの別世界。訪れるたびにわくわくする。

 

立ち枯れした巨木にサルノコシカケの仲間が多数発生

 

そもそも、温帯を代表する樹種であるブナは、日本では鹿児島県大隅半島が南限で、東日本に多く分布している。北海道では南部の渡島半島のみに分布し、黒松内がブナの森の北限だ。つまり、北海道東部に位置する阿寒湖周辺では、ブナを見ることができない。道東を代表するブナ科の樹木といえば、寒冷な気候をものともしないミズナラだ。

新緑の季節、紅葉の季節ブナの森のきのこたち※世界自然遺産の登録地域は、核心地域と緩衝地域に分けられる。核心地域は、森林生態系保護を目的として管理・保護され入山が制限される地域。緩衝地域は、核心地域に外部から人為的影響を及ぼさないように指定されている地域で、気軽に世界自然遺産に触れることができる。

 

新緑の季節、紅葉の季節

ぼくは、ここのところ何年も、6月から10月まで北海道に滞在しているので、白神山地を訪れるのは、ゴールデンウィーク前後と北海道へ渡る前の5月後半、そして、北海道を後にした10月後半から11月前半くらいの時期に限られる。しかしながら、ぼくは、ブナの森を心ゆくまで堪能できる季節は新緑と紅葉の頃だと思っているので、願ったりかなったりだ。
ブナの森は明るい。どちらかというと鬱蒼としている阿寒湖周辺の森とは好対照だ。ブナは、一本一本がすごく個性的な姿をしていて、絵になるし、眺めていて飽きることがない。

太いブナの根元からどんどん雪が解け、待ちに待った春が訪れ、木々は鮮やかな若葉で彩られる。晴れた日の森は、若葉越しにまばゆい緑の光が降り注ぐ。また、雨の日、ブナの巨木が、霧をまとって、威風堂々と存在感たっぷりに立っている姿もたまらない。森は、ちょっと土臭いような、それでも生のエネルギーを十分に感じることができる新鮮な香りで満たされ、見るもの全てが、まさに生き生きとしている。

 

ナメコ

ブナの倒木から発生するナメコは秋を代表する食菌だ

 

そして、秋。カエデ類やヤマウルシなど、派手な色に紅葉する樹木ももちろん美しいが、緑色〜黄色〜赤褐色〜褐色とさまざまな色を見せてくれる、ブナの葉のグラデーションに魅了される。山全体が装う白神山地の紅葉は圧巻だ。

 

ブナの森のきのこたち

とはいえ、ブナの森は、あくまでも脇役である。そう、ぼくにとって、観察と撮影の主役は、もちろんきのこだ。
春のブナの森は、命の輝きで満ちている。長く厳しい白い季節が去ると、林床に色とりどりの美しい草花が咲き競う。キクザキイチゲなど、イチリンソウの仲間の花が咲いていたら要チェック。地面を丁寧に確認していくと、運が良ければ、小さな茶碗型の茶色いきのこに出会える。アネモネタマチャワンタケだ。
林床の倒木や落枝には、ニセクロチャワンタケや、キクラゲの仲間が。また、きのこファンの間で春の風物詩として人気のアミガサタケの仲間を見たいなら、ヤマザクラの周辺を探すといいだろう。

アミスギタケ

傘の裏が網目のような管孔になっているアミスギタケ

 

新緑の季節になると同時に、森にはたくさんのきのこが顔を出し、シーズン本番だ。
白神山地に限らず、東北地方のブナの森は、きのこ天国。秋のきのこ狩りは、その地で暮らす人たちにとっては、春の山菜採りと同じく、趣味と実益を兼ねたレジャーでもある。地元の人たちは、マツタケやマイタケ以外の、ナメコ、クリタケ、ブナシメジ、ムキタケなどを「雑きのこ」などと呼んでいるが、雑などころか、みんな一級品のおいしいきのこばかりだ。
天然ものを食べるのは、きのこの最大級の楽しみ方ではあるが、初心者が種を同定するのは相当難しいので、生きものとしてのきのこを、ぜひじっくりと観察してほしい。10倍程度のルーペがあるとなお楽しい。

白神山地の核心地域※に立ち入るのは、手続きや沢歩きの技術や装備なども含めて、一般人にはかなりハードルが高いが、日本海側の青森県深浦市にある白神岳や十二湖、そして、未舗装・未整備の林道ではあるが、県道28号いわゆる白神ライン沿い、青森県西目屋村にある暗門の滝周辺、秋田県藤里町にある岳岱自然観察教育林などは、緩衝地域※なので届け出なしでも気軽にブナの森を堪能できる。ぼくが「白神山地」と呼んでいる場所も、ほぼその周辺だ。

新井 文彦〈あらい ふみひこ〉

地方の白神山地や八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌(変形菌)など、いわゆる隠花植物の撮影をしている。著書に『きのこの話』、『きのこのき』、『粘菌生活のススメ』、『森のきのこ、きのこの森』など。書籍、雑誌、WEBなどにも写真提供多数。

きのこには、食べると中毒事故を引き起こすものもあります。実際に食べられるかどうか判断する場合には、必ず専門家にご相談ください。

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